輸送時における馴鹿の獣医学的考察
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概要
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研究用馴鹿を樺太(現ソ聯領,サハリン地方)より北海道帯広市まで,無事健康状態で輸送するため,昭和18年12月,19年11月の2回にわたり各4頭ずつ輸送する機会を得たので,筆者はこれら輸送馴鹿の生態を主として獣医臨床学的に観察するとともに,気象状況をも測定して,これらの影響をも観察しつぎの結果を得た。1)第1回目輸送では,それぞれ健康な牝・牡2頭ずつの輸送を行なったところ,全例7日目にいたり倦怠の微候を表わし,体重では平均11.0kg,約12.5%の減少を示したが,全頭急惧すべきことなく,輸送に成功した。2)第2回目輸送は,1回目に比べ,体温,脈搏数,呼吸数,最大血圧などを細かに測定し,さらに食欲,反芻,排尿,排糞などをじゅうぶんに観察した。3)第2回目の輸送の4頭中,病鹿の1頭を除く3頭は元気,食欲に危惧すべき変化は認められなかったが,1頭(9歳牝)は始めより元気がなく,輸送終了後の降車時にはことに衰弱著しく,歩様も蹌踉し,終了10日後には胸膜肺炎で斃死した。4)輸送中の体温は各頭ほとんど見るべき変動がなく,前記の病鹿のみが輸送3日目に最高の体温38.9℃を表わし,軽発熱を呈したほかは多くのものが38.0〜38.5℃の正常範囲の体温を維持した。5)脈搏数の変動は,動物の疲労度を示す重要な要目と思われるが,病鹿では輸送前よりすでに著明な増数を表わし,輸送車船上でもたまたま49/min程度の増脈をみた。しかしながら,他の正常鹿では29〜38/min前後の変動を示し,なかんずく興奮したものでは40/minを越えるものがあり,増数が著しいが一般に影響は少ない。6)呼吸数の変動は,肋膜肺炎の徴候を呈したものが輸送の前後にわたり変動が著しく,他のものはほとんど変動に乏しい。7)最大血圧を正中〜肢動脈で測定したところ,全例の半分が輸送後血圧の上昇をみ,半分はかえって減少をきたした。上昇した2頭は5歳の牝牡で,壮齢にあり,下降した2頭はそれそれ8,9歳の牝で,老齢のための疲労が疑われるが明確な判定基準としての証に乏しい。8)生体重の減少は4.5〜15.1kg程度で全例に起こり,輸送前に比べ平均7.31%減であったが,この場合,最大の採食を示した牡5歳(No.6)が最大減少率を示したことは注目すべきことであり,代謝がかえって促進されたことを示したといい得る。また,これらの体重の回復には終了後約2〜4週間を要した。9)気象変動との関連は,必ずしも明らかではないが,一般にさしたる影響は認めがたく,わずかに輸送車が山岳地帯で急激な気圧低下(756〜737mmHg)地帯に臨むや,多くの個体が横臥と催眠の徴を示し,明らかな倦怠を表わしたことは,最も興味深い問題であろう。10)輸送による疲労の徴候は,4日目に著明となり,体温にはさしたる変動がみられないにかかわらず脈搏数の軽度な増加の徴が認められ,同時に多くは横臥と催眠,食欲減退の状況を呈する。
- 1968-05-31
著者
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