アルファルファ(Medicago sativa L.)選抜栄養系の収量に関する近交弱勢
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概要
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アルファルファの収量は,近交に対して極めて敏感に反応する。しかも,同質4倍体のアルファルファでは,近交により生じたホモ接合性が2倍体の配偶子により部分的に後代へも伝わるため,育種過程における近交の制御は,重要な問題である。アルファルファの近交弱勢は,2種の遺伝的な効果に影響を受ける。一つは,対立遺伝子のヘテロ接合による効果であり,もう一つは、対立遺伝子の相加的効果である。しかし,実際の育種で行われる選抜が,これらの遺伝的な効果の改良とどう関わっているかについては,知見が少ない。そこで,アルファルファ選抜栄養系の収量に関する近交の効果を明らかにするため,19の栄養系の自殖次代を評価した。親栄養系は,導入品種または北海道内の古い草地からの収集株を育種過程の中で改良した栄養系を用いた。自殖次代は,交雑次代と比較して平均で83.9%と有意に収量が低く,約70%の交雑次代が,自殖次代の収量を上回っていた。また,近交の効果と特定組合せ能力の効果あるいは収量との関係は,ともに有意な正の相関関係にあり,栄養系や交雑次代の収量が,対立遺伝子のヘテロ接合による効果に影響されることが示された。一方,自殖に対する反応は,栄養系によって大きく異なり,対応する交雑次代の平均収量に対する自殖次代の相対収量は,58.7%から111.6%に分布しており,100%を越える栄養系もみられたことは,収量に対立遺伝子の相加的効果が働いていることを示唆していた。以上より,育種過程における収量に関する選抜が,主に対立遺伝子間のヘテロ接合性を高める結果になる場合と主に相加的効果を持つ対立遺伝子を集積する結果になる場合があり,その結果,選抜栄養系群には,近交に対する反応が大きく異なる栄養系が混在すると考えられた。同質4倍体のアルファルファにおいて,系統交雑によってヘテロシスを利用しようとする場合,親系統には,高度にヘテロ接合性で,しかも相加的効果の大きい優れた遺伝子が蓄積された系統が望ましい。しかし,相加的効果を持つ遺伝子を蓄積するためには,ヘテロ接合の影響を制限した条件での評価が必要となり,これを育種の中で行うことはヘテロ接合性の向上に逆行することになる。長期的な育種戦略としてヘテロシスの利用を考える場合には,2種の遺伝的効果を区別し,それらの相対的な重要度に応じて異なる育種法を採用する必要があると考えられる。今回,近交弱勢に関係する遺伝的効果の相対的な重要度については明らかにできなかったが,ヘテロシスを最大限に利用するためには,その評価が必要と考えられた。
- 日本草地学会の論文
- 1991-01-31
著者
-
我有 満
北海道農業研究センター
-
澤井 晃
九州沖縄農業研究センター
-
松浦 正宏
北海道農業試験場
-
植田 精一
北海道農業試験場草地開発第二部
-
我有 満
Hokkaido National Agricultural Experiment Station
-
澤井 晃
北海道農業試験場
-
松浦 正宏
北海道農業試験場:(現)広島県立農業試験場
-
植田 精一
日本飼料作物種子協会
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