犬および猫における貧血関連性感染症の遺伝子診断の臨床応用に関する研究
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
イヌのバベシア症およびネコのマイコプラズマ症は,それぞれ貧血を発生させる感染性の疾患である。本邦では,これら疾患の病原体はバベシア症ではBabesia. gibsoni (B. gibsoni)で,マイコプラズマ症ではMycoplasma haemofelis(M. haemofelis)とされており,それぞれ赤血球に寄生し宿主に貧血を発生させる。診断は,主に末梢血血液塗抹における直接鏡検によって行われているが,極端に寄生率の低い時には確定診断を行うことがしばしば困難であり,またゴミなどの夾雑物との鑑別は難しい。我々は以前から簡便かつ高感度な検出法としてPCR法に着目し,その臨床応用に関する研究を行ってきた。M. haemofelisには,Ohio株(OH)とCalifomia株(CA)が存在することが知られており,それぞれの株の16SrRNAの塩基配列を基に個々の株を特異的に認識しうるプライマーを作製し,マイコプラズマ症疑いの症例の血液から得られたDNAを鋳型としてPCR反応を行った。その結果は,血液塗抹検査所見とすべて一致し,優れた検出系であることを報告している。本研究では,イヌのバベシア症におけるPCR法の有用性を評価するため,B. gibsoni感染が疑われた犬38症例についてEnzyme-linked immunosorbent assay (ELISA)法による血中抗体価の測定と,Polymerase chain reaction (PCR)法を用いた遺伝子の検出による感染診断の比較検討を行った。その結果,ELISA法では38例中16例(42.1%)が感染陽性を示したのに対し,PCR法ではELISA陽性16例の他にELISA法により陰性であった11例を含む27例(71.1%)が陽性と判定された。PCR法で陽性の27例中4例では血液塗抹上で感染は確認できなかった。さらにPCR法では0.0003%の低い寄生赤血球率を持つ犬でも検出可能であった。以上のことからB. gibsoni自然感染症例の診断では,PCR法の方がELISA法および直接鏡検法よりも検出感度が高かった。そのためB. gibsoni感染において低寄生赤血球率の場合でもPCR法は有用な検査法であることが示唆された。また,猫のM. haemofelis感染および犬のB. gibsoni感染のPCR診断において,DNAの分離なしに全血から直接PCRを行うことを試み,従来のDNAからのPCRと同様な結果が得られるかどうか検討した。猫のM. haemofelis感染および犬B. gibsoni感染の全血にて,以前報告されているプロトコールに若干改変を行ない直接PCRを行なった。その結果,いずれの検体においてもDNAを鋳型とする従来のPCRと同じ結果が得られた。検出感度は,B. gibsoniでは0.08%寄生率,M. haemofelisのCA株感染では0.12%寄生率,OH株感染では0.26%寄生率において検出可能であった。本法は迅速性,簡便性,経済的であることからPCRの臨床応用に有用な方法であると考えられた。以上の研究の結果から,感染性の疾患の病原体を検出する方法としてPCR法が高感度な方法であることが明らかとなっただけでなく,直接PCR法が実用にむけての簡便なプロトコールの一つであることが示された。
- 麻布大学の論文
著者
-
土屋 亮
麻布大学 獣医学部内科学第二研究室
-
久末 正晴
麻布大学獣医学部獣医学科内科学第二研究室
-
渡辺 征
麻布大学獣医学部内科学第2研究室
-
山田 隆紹
麻布大学獣医学部内科学第2研究室
-
土屋 亮
麻布大学獣医学部内科学第2研究室
-
渡辺 征
麻布大獣医内科学第2
-
久末 正晴
麻布大学 環境保健・病理
-
土屋 亮
麻布大学
-
山田 隆紹
麻布大学 獣医学部内科学第二研究室
-
山田 隆紹
麻布大学獣医学部内科学第二研究室
-
山田 隆紹
麻布大学獣医学部
-
久本 正晴
麻布大学獣医学部
-
久末 正晴
麻布大学獣医学部
-
渡辺 征
麻布大学獣医学部
-
土屋 亮
麻布大学獣医学部
-
久末 正晴
麻布大 獣医
-
土屋 亮
麻布大学獣医学部獣医学科内科学第二研究室
関連論文
- 高Ca血症を併発した犬リンパ腫におけるParathyroid hormone-related protein(PTHrP)(短報)(内科学)
- 骨髄異形成症候群(MDS-CMML)の犬の一例(病理学)
- 山口県および近県の猫におけるMycoplasma haemofelisおよび'Candidatus Mycoplasma haemominutum'感染の分子生物学的調査(短報)(寄生虫病学)
- 山口県および近県の猫におけるMycoplasma haemofelisおよび'Candidatus Mycoplasma haemominutum'感染の分子生物学的調査(短報)(寄生虫病学)
- 山口県および近県の猫におけるMycoplasma haemofelisおよび'Candidatus Mycoplasma haemominutum'感染の分子生物学的調査(短報)(寄生虫病学)
- 山口県および近県の猫におけるMycoplasma haemofelisおよび'Candidatus Mycoplasma haemominutum'感染の分子生物学的調査(短報)(寄生虫病学)
- 山口県および近県の猫におけるMycoplasma haemofelisおよび'Candidatus Mycoplasma haemominutum'感染の分子生物学的調査(短報)(寄生虫病学)
- 全血を用いたPCRによる猫Mycoplasma haemofelisおよび'Candidatus Mycoplsma haemominutum'感染の検出(臨床病理学)
- 急性骨髄単球性白血病の犬の1例(臨床病理学)
- 免疫グロブリン静脈内投与療法および脾摘が有効であった特発性血小板減少性紫斑病の犬の1例
- 血小板活性化因子による犬の血小板活性化反応の特性とそれに対する抗血小板物質の抑制効果(臨床病理学)
- 犬バベシア感染症と猫マイコプラズマ感染症のPCR検査について
- 小動物臨床における遺伝子検査の臨床応用について
- 口腔内腫瘤と多発性骨溶解を伴った犬の非定型リンパ腫の一例(短報)(臨床病理学)
- 血液サンプルからの直接PCR法による犬バベシア感染診断の検討
- 犬の血清中TLI高値を検出できるイムノクロマトグラフィーアッセイ法の開発(臨床病理学)
- 犬の実験的エンドトキシン血症における血清微量元素濃度の変動とデキサメサゾン投与による緩和効果 (日本小動物獣医学会会誌)
- 犬肝癌細胞に対する肝細胞増殖因子の影響(I.大学院重点特別・研究科特別経費,平成18年度麻布大学公的研究助成金事業研究成果報告)
- 化学発光酵素免疫法による犬血清サイロキシンおよび甲状腺刺激ホルモン濃度の基準範囲
- 小動物の骨髄異形成症候群(MDS)における診断および治療法の検討
- 犬c-Met/HGFレセプターcDNAクローニングと組織分布ならびに再生肝におけるmRNAの発現(短報)(臨床病理学)
- 犬および猫における貧血関連性感染症の遺伝子診断の臨床応用に関する研究
- 犬の肝幹細胞に関する研究「犬c-Met/HGFレセプターcDNAのクローニングとその組織分布」(共同研究,平成15年度麻布大学公的研究助成金事業研究成果報告)
- ヘモバルトネラ・フェリスに特異的なプライマーを用いたPCRによる猫ヘモバルトネラ症の遺伝子診断および感染株同定(短報)(内科学)
- 犬の保存全血中血小板の凝集活性および保存全血輸血後の血小板生存時間(内科学)
- 骨髄線維症が疑われたイヌの一例
- 犬肝幹細胞に関する研究 : 犬c-Met遺伝子のクローニング(平成14年度麻布大学公的研究助成金事業研究成果報告)
- 全血を用いたPCRによる猫Mycoplasma haemofelisおよび'Candidatus Mycoplsma haemominutum'感染の検出(臨床病理学)
- 全血を用いたPCRによる猫Mycoplasma haemofelisおよび'Candidatus Mycoplsma haemominutum'感染の検出(臨床病理学)
- 小動物の栄養学 : 基本的な考え方
- 再生獣医療(第2回)肝臓の再生--獣医療領域における現状と課題
- 小動物診療のエビデンス 腫瘍(10)猫のリンパ腫(1)診断と化学療法
- 犬のNeospora caninum感染症に関する臨床学的研究
- 獣医療における多項目自動血球計数装置pocH-100iVの性能評価
- 犬の原発性マクログロブリン血症の1例
- 獣医学領域における感染症の遺伝子診断 : スズメの発痘部からPCR法により検出した鳥ポックスウイルス
- ミオキミア/ニューロミオトニアのヨークシャーテリアの1例 (日本小動物獣医学会誌)
- 症例報告 猫の第12因子欠損症の一例
- Babesia gibsoni 感染が犬の末梢血中血小板数に及ぼす影響
- イヌ消化管型悪性リンパ腫由来腫瘍細胞株の樹立と担癌SCIDマウスにおける血中カルシウム濃度の変化およびPTH-rP所見(第25回麻布環境科学研究会)
- 実験的 Helicobacter felis 感染猫の病理学的検討
- ネコにおけるBence Jones蛋白尿を伴ったIgA-M蛋白血症
- 肝疾患犬の血清中alpha-fetoprotein濃度
- ザンビアの野生のシマウマに認められた皮膚のブドウ球菌性肉芽腫 (短報)
- 牛血清OCT活性測定の改良法
- 乳用種雄子牛の血清蛋白について
- 日本の飼い猫における新規なヘモプラズマ,'Candidatus Mycoplasma turicensis'感染の検出 (日本小動物獣医学会誌)
- Propidium iodide (PI) 蛍光測定法によるネコのリンパ球mitogen反応の測定
- 抗体解離法とELISAによる犬赤血球結合IgG, IgMおよびC3濃度の測定
- ネコ胆汁からの分泌型IgA精製と成長期ネコにおける胆汁中IgA濃度
- 貧血 (小動物臨床とPOMR)
- 乾式簡易血液分析システム(レフロトロン)の獣医臨床への応用
- 猫のモノクローナルIgAおよびBence Jones蛋白に関する免疫化学的研究
- 高カルシウム血症と赤芽球癆を併発した猫のIgA型多発性骨髄腫の1例
- 猫白血病ウイルスに感染した猫の血液疾患におけるクローナリティ解析
- 研究科分 犬血球表面免疫物質検出法の改良 (平成19年度麻布大学公的研究助成金事業研究成果報告)
- 犬のエンドトキシンによる血球反応に於ける血漿成分の関与(I.大学院重点特別・研究科特別経費,平成18年度麻布大学公的研究助成金事業研究成果報告)
- 健康犬血清中甲状腺関連ホルモン濃度と抗甲状腺ホルモン自己抗体の実態調査
- イヌの免疫介在性血小板減少症に対するIgG大量静注(IVIG)療法の検討(研究科分,平成15年度麻布大学公的研究助成金事業研究成果報告)
- 犬のBabesia gibsoni自然感染症例におけるPCR法およびELISA法による診断の比較 (日本小動物獣医学会会誌)
- ネコ胎盤のsnRNA及びsnRNP
- リスザルの皮質過骨症の経時的観察(I.大学院重点特別・研究科特別経費,平成18年度麻布大学公的研究助成金事業研究成果報告)
- リスザルの皮質過骨症の経時的観察
- リスザルの皮質過骨症の経時的観察
- 牛尿石症のと畜検査所見とBUNとの相関
- 肥育牛の尿石症の発生状況とその対策
- わが国の飼育ネコにおける'Candidatus Mycoplasma turicensis'の感染(細菌学)
- イヌの肝芽腫 (短報)
- 犬の下痢症に対する「VBGゲル犬用(味改良版)」の効果
- 肝臓・膵臓疾患の診断基準
- イヌの免疫介在性血小板減少症に対するヒトIgG大量静注療法の検討(平成14年度麻布大学公的研究助成金事業研究成果報告)
- イヌの輸血用血小板製剤作製法の開発
- 看破せよ、遺伝病。(第11回)犬と猫における消化器系の遺伝病
- 日本の飼い猫における新規なヘモプラズマ, 'Candidatus Mycoplasma turicensis' 感染の検出
- ミオキミア/ニューロミオトニアのヨークシャーテリアの1例
- 続・獣医師たちの3.11 : 福島県における被災動物救済活動の記録 動物救護本部福島シェルターでの活動
- 犬の実験的エンドトキシン血症における血清微量元素濃度の変動とデキサメサゾン投与による緩和効果