乳牛において緩やかに飼料中カチオン・アニオン差を変化させることによる乳熱予防効果(内科学)
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概要
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本研究では,緩やかに飼料中カチオン-アニオン差(DCAD)を変化させることによって乳牛の乳熱を予防できるかどうかを調べた.30頭の経産牛および10頭の未経産牛(若牛群)を用い,経産牛は無作為に10頭ずつの3群に分けた(アニオン,非アニオンおよびコントロール群).アニオン群には少しDCADを低下させる補足塩を与えた.1頭当たりの1日量として,CaCO_3 115g, CaHPO_4 42g, MgSO_4・7H_2O 65gおよびCaCl_2・2H_2O 80gが,分娩予定日の21日前から分娩日まで,カテーテルを使って投与された.非アニオン群には,硫酸および塩化物を含まず,アニオン群と同等のCaMg, jpを含む補充塩が投与された.コントロール群および若牛群には補充塩は投与されなかった.アニオン群の低Ca血症発症率は,非アニオン群およびコントロール群のおよそ3分の1に減少したが,若牛群では低Ca血症が発症しなかった.さらに,アニオン群においては,低Ca血症を治療した日数および治療に要した薬瓶の数(ボログルコン酸Ca溶液)が,非アニオン群およびコントロール群に比較して半分以下に減少した.分娩時,コントロール群(6.2±1.9mg/dl,平均値±標準偏差)および非アニオン群(6.4±1.7mg/dl)の血清Ca濃度は,若牛群の値(8.3±0.4mg/dl)に比較して有意に低く,アニオン群の値(7.3±1.3mg/dl)はこれらの中間であった.イオン化Ca濃度の変化は,血清Ca濃度の変化とほとんど同じであったが,アニオン群の濃度だけが分娩1週間前から増加する傾向を示し,分娩3日前には他のすべての群よりも有意に高い値となった.分娩前2週間のアニオン群の尿pH(6.8-7.0)は,コントロール群(7.3-7.5)および非アニオン群の値(7.9-8.1)に比較してやや酸性に維持され,若牛群の値(6.3-7.3)に近似していた.分娩前の尿中Ca排泄量は,アニオン群の値がすべての群の中で最も高かった.すべての経産牛群の上皮小体ホルモンおよび1,25-ジヒドロキシビタミンD濃度には,特別な変化は認められなかったが,若牛群では実験期間中を通してこれらのホルモンは低い濃度に保たれた.本研究の成績から,分娩前にわずかにDCADを低下させる陰イオンを投与することにより,経産牛において乳熱を予防する効果があることが示された.この陰イオンによって生じた安全で緩やかな代謝性アシドーシスの程度は,尿pH(6.8-7.0)で評価することができた.また,このアシドーシスが分娩時のCa要求に対しての感受性を増加させると考えられたが,その効果はCa関連ホルモンの放出によるものではなく,複雑なメカニズムを通して発揮されると推測された.さらに,未経産牛は突然のCa要求に対して反応する高い能力を有することが明らかになったが,これについてもホルモンの放出によるものではなかった.また,未経産牛のCa代謝は,陰イオンを投与された経産牛のCa代謝にいくつかの点で類似していた.したがって,緩やかにDCADを変化させる技術は,乳熱を予防する効果的で安全な,かつ自然な方法であると考えられ,今後の実用化が期待される.
- 社団法人日本獣医学会の論文
- 2007-02-25
著者
-
大和 修
北海道大学大学院獣医学研究科診断治療学講座獣医内科学教室
-
山崎 真大
北海道大学大学院獣医学研究科獣医内科学教室
-
前出 吉光
北海道大学大学院獣医学研究科診断治療学講座獣医内科学教室
-
黒崎 尚敏
北海道大学大学院獣医学研究科診断治療学講座獣医内科学教室
-
森 史伸
(有)トータル・ハード・マネージメントサービス
-
井本 精一
トキシコロジーコンサルタント
-
Maede Yoshimitsu
Department Of Veterinary Clinical Sciences Graduate School Of Veterinary Medicine Hokkaido Universit
-
Yamato O
Hokkaido Univ. Sapporo Jpn
-
大和 修
北海道大学大学院獣医学研究科内科学教室
-
黒崎 尚敏
北海道大学大学院獣医学研究科診断治療学講座獣医内科学教室:(有)トータル・ハード・マネージメントサービス
-
前出 吉光
北海道大学大学院獣医学研究科獣医内科学教室
-
Yamasaki Masahiro
Department Of Veterinary Clinical Sciences Graduate School Of Veterinary Medicine Hokkaido Universit
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