植物ケイ酸体による放牧家畜の採食草種の判定と採食量の推定 : 1.植物ケイ酸体による草種判定の可能性と生育段階によるケイ酸体構成割合の変化
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
植物ケイ酸体の形態とその構成割合による草種判定の可能性について検討した。供試草はイネ科牧草のオーチャードグラス(OG, Dactylis glomerata L.),トールフェスク(TF, Festuca arundinacea Schreb.),ペレニアルライグラス(PRG, Lolium perenne L.),リードカナリーグラス(RCG, Phalaris arundinacea L.)と,自然草地の主要草種であるススキ(Miscanthus sinensis Anderss),オオアブラススキ(Spodiopogon sibiricus Trin.),トダシバ(Arundinella hirta C. Tanaka),シバ(Zoysia japonica Steud),チマキザサ(Sasa palmata Nakai),ハルガヤ(Anthoxanthum odoratum L.),スゲ(Carex spp.)の計11種とした。1.特徴のある形態の植物ケイ酸体としてイネ科牧草4種ではボート型,帽子型,楕円型ケイ酸体が共通に,野草のススキ,オオアブラススキでは亜鈴型と複合亜鈴型,トダシバでは亜鈴型,十字型,短座鞍型,チマキザサでは鞍型,シバでは短座鞍型,ハルガヤではボート型とボートB型,スゲでは円錐型の各ケイ酸体が観察された。牧草4種とハルガヤはイチゴツナギ亜科に属し,ボート型ケイ酸体により他の亜科と判別された。さらにハルガヤはボートB型ケイ酸体により牧草4種と識別されるが,牧草4種間では指標ケイ酸体による草種識別は不可能であった。ススキ,オオアブラススキ,トダシバはキビ亜科に属し,亜鈴型ケイ酸体の存在から他の亜科の草種と判別が可能であった。この中でトダシバは十字型により,ススキとオオアブラススキは複合亜鈴型により判別が可能であり,さらにオオアブラススキは突起が4個以上の複合亜鈴型を含むことから,これによりススキとの判別が可能であった。シバは短座鞍型により,トダシバ以外の草種との判別が可能であった。チマキザサ,スゲは,それぞれの指標ケイ酸体により草種判定が可能である。2.牧草4草種の中でOGとTFの2草種間では3種の指標ケイ酸体の割合が大きく異なることから,この2草種からなる草地では,放牧家畜の糞中ケイ酸体を用い草種ごとの採食量の推定が可能であることが示唆された。3.イネ科牧草4種で全地上部のケイ酸体を生育期を通じてみると,いずれの時期も指標ケイ酸体が形成されており,また指標ケイ酸体の構成割合の変動は出穂期を除くと小さく,生育期を通じて植物ケイ酸体による草種判別の適応が可能であった。4.葉身と葉鞘を部位別してみるとTFは葉身と葉鞘でケイ酸体の構成割合に大きな違いはないが,OGでは葉身は葉鞘に比ベボート型が約2倍となり,葉鞘には葉身に見られない帽子型,楕円型ケイ酸体が形成される。したがって,葉鞘の割合が高い出穂期では草種判別の測定誤差が大きくなる。しかし,適正な放牧条件下の短草利用では葉身の割合が著しく高いことから,葉の部位によるケイ酸体組成の違いは採食草種判定の大きな障害とはならないと考えられる。
- 日本草地学会の論文
- 1997-10-31
著者
関連論文
- 黒ボク土地帯における草原の遷移に関するリンの役割(1) : 一年生および多年生草本植物群落におけるリンの循環
- 放牧影響下にあるススキ型草地での低木群落の成立
- 植物ケイ酸体を用いた放牧家畜の採食量および採食草種の推定 : 植物ケイ酸体の分離方法の検討
- 排尿地点における牧草の嗜好性とミネラル含有率
- 放任されたオーチャードグラスの物質生産構造の季節変化
- 永年放牧地におけるダニ生息密度と環境条件 : III.フタトゲチマダニ(Haemaphysalis longicornis NUMANN)の生息密度と放牧密度との関係
- 放牧牛の空間分布の写真による解析(1) : 写真による個体識別
- 飼料用トウモロコシ圃場へのツキノワグマの侵入および被害の実態
- シロクローバ採食下における緬羊のルーメン内性状 : 1.シロクローバおよびオーチャードグラス制限給餌下でのルーメン液泡沫安定性,ルーメン発酵およびルーメン運動
- 反芻家畜のシロクローバ採食に伴うルーメン運動の変化 : 血圧測定キットを用いた緬羊ルーメン内圧変化の測定
- 反芻家畜のシロクローバ放牧利用における混生イネ科草の役割
- 川渡農場・六角地区における牧草地の植生について
- チマキザサ(Sasa palmata)の放牧利用
- 荒廃牧草地の更新法の検討(I) : RT優占群落の粗耕法による更新
- オーチャードグラスの自然下種による植生維持と放牧方式
- フランネル法によるフタトゲチマダニ(H. longicornis)の生息密度調査法の検討
- 人工草地の自然下種に関する生態学的研究 : II. オーチャードグラス(Dactylis glomerata L.)の種子登熟歩合と自然落下率および春の刈取りが種子生産に及ぼす影響
- スギ葉の発育と光合成能 : 葉の可溶性たん白の組成について
- S3 スギ(Cryptomeria japonica)葉の発育に伴う光合成能の変化
- スギ葉の発育と光合成能 : 酸素放出と炭酸ガス固定を中心として
- スギ葉の発育と光合成能 : 酸素放出とクロロフィル集積を中心として
- スギ枝葉の着生部位による栄養生理的役割の相違について
- 植物ケイ酸体による放牧家畜の採食草種の判定と採食量の推定 : 1.植物ケイ酸体による草種判定の可能性と生育段階によるケイ酸体構成割合の変化
- 植物ケイ酸体を用いた放牧家畜の採食量および採食草種の推定 : 植物ケイ酸体量の季節変化と草種間差
- 酸化クロムカプセルによる放牧緬羊の排糞量推定方法の検討
- 植物ケイ酸体を用いた放牧家畜の採食量および採食草種の推定 : 自然草地における放牧牛の採食草種の判定
- 庇蔭処理栽培された牧草種間の嗜好性差異
- 施肥条件が庇蔭牧草の嗜好性に及ぼす影響
- 壮令林内牧草の採食利用性
- アルミニウム耐性オオムギ細胞のストレス選抜とその再分化植物の黒ボク土での生育
- オーチャードグラス再生初期の葉身化学組成の変化
- 緬羊のシロクローバ採食に伴うルーメン内泡沫形成が微生物発酵に及ぼす影響
- 繋ぎ飼い畜舎における高能力牛の行動の乳量,乳期,産次による違い
- 雄牛の性行動における嗅覚の役割
- 発情牛の発情臭とその発散部位
- ススキ給与時におけるクロモーゲンの回収率について
- アカマツ壮令林地の牧草生産性
- 幼令造林地への牧草導入が放牧牛による林木の損傷に及ぼす影響について
- 草類の可溶性炭水化物の生理化学的研究 : 第1報 刈取り再生過程におけるオーチャードグラス刈株のフラクトサン含有率及び重合度の変動について
- 現地測定によるシロクローバ(Trifolium repens L.)・オーチャードグラス(Dactylis glomerata L.)草地の窒素固定活性の季節変動
- オーチャードグラス再生初期の貯蔵窒素の利用性
- オーチャードグラス(Dactylis glomerata L.)再生時の葉身の発育と窒素栄養
- オーチャードグラスのアーバスキュラー菌根形成に及ぼす地上部収奪の影響
- 永年放牧地におけるダニ生息密度と環境条件 : II.マダニの定量的調査法の検討