東北地方産新第三紀ブナ葉上の化石菌類および現生ブナ葉上の関連菌類について
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概要
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日本産ブナ植物体上およびブナ林内には, 菌類の固有種あるいは固有の種内分類群が多いとされる。本研究はそのような菌類の分化を古生物学的側面から明らかにすることを最終目標とする。幸い日本は世界で例をみない程の各地質時代のブナ化石の多産地で, それらの化石ブナ葉上には多量の化石菌類が保存されていることが予測され, 本研究に絶好の条件をそなえている。今回は, 東北地方山形県西置賜郡飯豊町高峰産, 中新世後期のブナ Fagus stuxbergi(NATHORST)TANAI および同県最上郡最上町赤倉産, 同じく中新世後期のブナ Fagus cf. F. crenata BL. の化石葉上の菌類6種を検出し, これらとよく似た現生ブナ F. crenata BL. 葉上の菌類5種と比較し記載した。 赤倉の植物化石含有層からは, Mycosphaerella cf. M. fagi(AUERS.)LINDAU, M. sp., Plagiostomella sp.1(以上子のう菌), Leptothyrium aff. L. quercinum SACC. および Discosia sp.(以上分生子果不完全菌類)が得られた。一方, 高峰の植物化石含有層からは, Plagiostomella sp. 2. のみが検出された。 これらの化石菌類は, いずれも比較に用いた現生の関連菌類とよく似ており, 子実体および1種のみで検出された子のう胞子の形態的特徴による種の識別は困難であったが, 化石葉上の菌類によって形成された斑点の性状あるいは同一葉上に共存する他菌類の種組成や不完全菌類の場合の有性時代子実体の有無などの特徴から, 別種と判別できる例がみられた。このような性質は, 従来化石菌類の同定に利用されたという報告例はないが, 化石葉上菌類の分類研究にとって重要な形質と考えねばならない。 日本産化石ブナ葉上の化石菌類の研究は, 従来全く行われておらず, 今回検出された化石菌類はすべて新記録である。欧米の研究では, Sphaeriales, Phacidiales および Sphaeropsidales の数点の報告があるが, 今回の日本産菌類のように現生の関連菌類との比較によって属まで決定された例はない。ちなみに, 今回比較に用いた5種の現生ブナ葉上の菌類もすべて日本新産で, そのうち Plagiostomella 属の1種は従来1属1種とされていた当属の第2種めにあたる新種と考えられる。また, Discosia 属の1種は従来知られている当属のどの種よりも小型・細身の分生子をもつ点で新種の可能性の高い種である。これらの現生菌類ならびに化石菌類の種名については, さらに検討を加えた上, いずれ別の機会に報告したい。
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