正常妊娠時の血液凝固・線溶能と児の発育 : 推定体重からの検討
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概要
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胎児の発育を左右する要因には多くのものがあり, それらが複雑に関連しているために, その解明は困難である. そこで, 著者らは妊娠時, 特に妊娠中期から後期にいたる血液凝固・線溶能の変化が児の発育にいかに影響を及ぼすかを検討する目的で本研究を行い, 以下の結論を得た. 対象は正常妊婦86例で, 同一症例の妊娠28週 (妊娠中期)と妊娠36週 (妊娠後期)に母体血の凝固・線溶能及び児の推定体重を検索した. 1. 妊娠中期から後期にかけての血液凝固・線溶能の変化は一様ではなく, 次のごとくであつた. 血小板数減少例の割合は全体の 68・6%, 血小板 ADP, epinephrine, collagen凝集能低下例は各々全体の60.5%, 55.8%, 51.2%であつた. プロトロンビン時間及び活性部分トロンボプラスチン時間短縮例は各々全体の58.1%, 51.2%にみられ, fibrinogen減少例は全体の24.4%であつた. Antithrombin III, plasminogen 及び alpha_2-plasmin inhibitor活性低下例は各々全体の66.3%, 55.8%, 75.6%にみられた 2. プロトロンビン時間短縮群における児の出生体重は2,935.1±395.2gに対し, 延長群は3,106.2±357.9gであり, 更に妊娠中期から後期の児の体重増加量をみると, 各々1,431.6±296.5g, 1,644.5±390.5gでいずれも有意差を認めた (p_<0.05, p_<0.01). Antithrombin III活性低下群の児の出生体重は2,960.1±341.3g, 亢進群3,157.8±370.0gであり, 妊娠中期から後期の児の体重増加量をみると各々1,477.7±281.9g, 1,637.1±390.6gでいずれも有意差がみられた (p_<0.02, p_<0.05). 3. 妊娠中期から後期の児の体重増加量をみると, 同時期のプロトロンビン時間及び活性部分トロンボプラスチン時間がともに延長した群はともに短縮した群に比してその増加量は有意に大きかつた (p_<0.001). 以上のことより, 妊娠中期から後期における母体血の凝固・線溶能の変化は児の発育に影響を及ぼしていることが示唆された.
- 社団法人日本産科婦人科学会の論文
- 1991-09-01
著者
-
布施 養慈
帝京大
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永江 毅
愛甲クリニック
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布施 養慈
帝京大学医学部産婦人科学講座
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持田 福重
帝京大溝口病院
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向井 治文
帝京大学医学部附属溝口病院産婦人科
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永江 毅
帝京大学医学部附属溝口病院産婦人科
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持田 福重
帝京大学医学部附属溝口病院産婦人科学教室
-
布施 養慈
帝京大学医学部附属溝口病院産婦人科
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