マングローブ胎生種子の散布パターン : Rhizophora mucronataに関する基礎的調査
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
マングローブ樹種の胎生種子は,水流と潮流によって散布される。散布パターンは,地理的なレベルでの種の分布域拡大や,地域的なレベルでの個体群の形成過程と密接に関係する。この論文では,Rhizophora mucronataの胎生種子の散布過程を,捕獲-再捕獲法に準じた方法で実際に追跡して調べた。調査地は,南タイのラノン市郊外にあるマングローブ林とした。1991年12月24日に,610個のR. mucronataの胎生種子を採取して,番号ラベルを付けた。これらの標識サンプルのうち,310個を林内に置き,残りの300個を流路長2700mの小河川に投入した。1ヶ月間に計5回の調査を行い,標識サンプルを再捕獲した。林内に置いた標識サンプルは,容易に移動せず,1ヶ月後に75%の数が同一場所に留まっていた。この場所では満潮時に潮が森林に侵入するが,地上に密生する支柱根が,標識サンプルの移動を妨げていることが考えられた。一方,川に投入した標識サンプルでは,1ヶ月間の移動距離が確認されたもので最大1210mに遠した。しかし,投入された場所から300m以内にあるものが,全体の68%の数を占めていた。標識サンプルの捕獲率は,36%と低かった。サイズ別の捕獲率と到遠距離の傾向を解析したところ,捕獲されなかった標識サンプルは小型のものが多く,岸にある支柱根のブッシュに入り込んだ可能性が高いことが推論された。末捕獲サンプルの到遠距離は,比較的短い場合が多いと考えられた。数回にわたって捕獲された標識サンプルについて,1ヶ月間の個体の移動パターンを解析した。ゆっくりと下流に移動した個体が多くみられた。下流に向かって比較的速く移動したものの中に,満潮にのって再び上流に移動した標識サンプルが比較的多く存在した。このような標識個体は,1ヶ月後に投入地点の近くに戻って来るという回帰性を示した。標識サンプルの中には,サルとカニによって捕食されたものが存在した。また,標識サンプルがカニによって巣孔に運ばれ,わずか数日後に胚軸が直立したものが2個体発見された。これらの動物の行動が,胎生種子の定着に影響を与えていることが確認された。
- 岐阜大学の論文
- 1992-12-25
著者
-
小見山 章
岐阜大学農学部生物資源生産学科
-
小見山 章
Faculty Of Agriculture Gifu University
-
CHIMCHOME Vijak
タイ国王室森林局森林管理部
-
KONGSANGCHAI Jitt
タイ国王室森林局森林管理部
関連論文
- ブナ天然林における維管束着生植物の分布と種数
- SP-17 ダブルバルーン内視鏡による診断が有効であったメッケル憩室出血の1切除例(特別ポスター3 小腸・出血,第62回日本消化器外科学会定期学術総会)
- ブナの豊凶がツキノワグマの食性に与える影響 : ブナとミズナラの種子落下量の年次変動に関連して
- マングローブ植物類(Sonneratia caseolarisとAegiceras corniculatum)の組織培養条件下における養分吸収特性
- 特別発表 ブナ天然林の種多様性に与える着生植物の影響
- 同一斜面上に生育するヒノキとミズナラ根重の垂直分布に関する知見
- 岐阜県飛騨地方における落葉広葉樹林の相対成長関係
- 上層木の開葉時期差がもたらす下層木の分布集中性(Journal of Forest Research)
- 上層木の開葉フェノロジーが林内に移植したツリフネソウの伸長成長に与える影響
- 改良した樹木直径測定用の遠隔輪尺の精度