自然教育園で大発生したキアシドクガ(鱗翅目,ドクガ科)成虫の小型化について,2007年
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概要
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2004年から開始された継続的なキアシドクガの大発生によって、発生した成虫が小型化していることが明らかになったが、2006年に行ったサンプリング調査とまったく同じ調査を2007年にも行ない、個体数とサイズの変化を調べた。樹冠部を飛翔する雄の個体数は、2006年に比べて少し減ったと感じたが、皇居の2005年の観察と比べると、大量に発生していることは間違いなかった。雌雄の合計サンプリング数では2006年が654頭であったが、2007年は275頭で前年の42%である。2007年の発生状況が2006年のものと大きく異なる点は、地上付近から2-3mの高さを飛ぶ雄の個体数が減少したことで、サンプリング個体数の522頭から189頭への36%であった。また、樹冠を飛ぶ雄の飛翔力も増加していたようで、前翅長も2006年のものに比べて有意に長くなっており、2005年の平均値と等しくなった。一方、雌の採集個体数は86頭で、2006年の132頭の65%であった。雌の前翅長は2006年のものと同じであるので、飛翔行動は前年並みと考えられるから、成虫全体の発生量の減少はこの数値に近いものと推定できる。また、2005-2007年の3年間で雄の前翅長がミズキの被害の多寡によって有意に変化したのに比べ、雌の前翅長に変化はなかった。幼虫の飢餓に対する抵抗性や適応性は雌雄で違っているのかもしれない。本種の大発生が自然林や丘陵地の公園で起った場合、数年で発生は収束し、ミズキやクマノミズキが枯死に至ることはほとんどないという。しかし、都心にあって、ビルや道路に囲まれ孤立している自然教育園においては、2002年から2005年の3年間で約100本(1,369本中の約7%)、2005年から2006年の1年間で86本(1,285本中の6.7%)、2006年から2007年では162本(1,208本中の13.4%)が枯死している。生存している個体の樹勢も弱っており、キアシドクガの大発生が収束しない限り、今後も枯死が進行していくものと予想される。
著者
-
大和田 守
Department of Zoology, National Science Museum
-
大和田 守
国立科学博物館
-
矢野 亮
国立科学博物館附属自然教育園
-
桑原 香弥美
国立科学博物館附属自然教育園
-
大和 田守
国立科学博物館動物研究部
-
矢野 亮
国立科学博物館付属自然教育園
-
大和 田守
Department of Zoology, National Science Museum, Tokyo
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