日本産クルマアツバ亜科ハナマガリアツバ属(ヤガ科)のガと紀伊半島における分布
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概要
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ハナマガリアツバ属 Hadennia のガは日本に3種を産する。先に公表した論文で, わたしはこれらのうちの2種の学名を便宜的に正し, 1種を未記載のまま残しておいた(OWADA, 1978). 1978年6∿7月に, わたしは紀伊半島南部で採集を行ない, 本属の種を多数採集したが, その大部分はこの未記載種にほかならなかった。この機会に, 日本に産する本属のガをまとめ, その分布型を比較し, とくに紀伊半島における3種の混生の要因について考察した。本属は, 雄の下唇鬚が特化するグループに属する。近縁な属との関係は前報 (1978) で考察した。しかし, このたび新種として記載したヒメハナマガリアツバ(新称)は, その雄の下唇鬚が特化せず, 本属の他の種にみられる触角の特化器官も失なわれている。また, 台湾産の3種のこれら器官の保有状態から推察して, 雄の下唇鬚および触角の特化器官は, 本属では安定した形質とはいえないことがわかった。日本産3種の学名は次のとおりである。 Hadennia incongruens (BUTLER) ハナマガリアツバ。分布 : 日本(北海道, 本州, 四国, 九州, 対馬);朝鮮, アムール, ウスリー。 Hadennia obliqua (WILEMAN) ソトウスアツバ。分布 : 日本(本州南西部, 四国, 九州, 八丈島, 屋久島, 奄美大島, 沖縄島, 石垣島, 西表島)。Hadennia nakatanii OWADA, n. sp. ヒメハナマガリアツバ(新称)。分布 : 日本(本州南西部, 四国, 対馬)。ヒメハナマガリアツバは, ハナマガリアツバによく似ているが, 小型であること, 雄の下唇鬚および触角が特化していないこと, 環状紋が黒褐色の小点であること, 腎状紋が円形であること, 前翅頂の下に三角の黒紋を有すること, 外縁線が連続した細い線となることなどの点で区別できる。日本の Hadennia3種は, 本州南西部, 四国, 九州などで分布が重複するが, それぞれの分布型はかなり異なっている。ハナマガリアツバは温帯性落葉広葉樹林帯を中心に広く分布し, 残りの2種は照葉樹林帯に分布する。しかし, ヒメハナマガリアツバは発達した照葉樹林にのみ生息し, ソトウスアツバは海洋性気候により適応しているようで, 前種の分布しない琉球列島の南端まで分布が延びている。照葉樹林帯に生息する近縁な種のすみ分けは, 杉 (1971) により, 常緑カシ類を食う Catocala3種でも指摘されている。日本の Hadennia3種は, 過去においては, より異所的な分布をしていたのであろう。照葉樹林の崩壊とともにできあがった二次林にハナマガリアルバが侵入し, いっぽう, 照葉樹林内の環境の変化に伴なって生態的隔離が解かれたことによりソトウスアツバが内陸部に侵入可能となったため, 現在みられる混生地帯ができたものと推定される。その好例が紀伊半島にみられる。そこには大塔山大杉谷のように3種が同時に採集される地域がある。
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