マキバメクラガメの消化系中の酵素(特にアミラーゼ)およびでん粉消化に関する研究
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概要
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1.マキバメクラガメの中腸はアミラーゼ,α-グルコシダーゼ,およびβ-h-フラクトシダーゼを含んだが唾腺はアミラーゼのみしか含まなかった。2.唾腺アミラーゼ活性は後葉で非常に高く前葉ならびに副腺で非常に低かった。3.中腸にプロテアーゼ活性と非常に弱いアミノペプチダーゼ活性が認められたが,唾腺中にはプロテアーゼのみしか検出されなかった。4.中腸インバーターゼの最適反応温度はpH5.5,24時間反応で約37℃でありまたその最適pHは5.5でっあた。5.中腸プロテアーゼの最適温度は唾腺プロテアーゼのものと同様約37℃であった。中腸プロテアーゼはpH5.5と7.0に2つの反応最適pH(前者は非常に低い)を持った。唾腺プロテアーゼのpH-活性関係も中腸のものとほぼ同じであった。唾腺プロテアーゼの活性は中腸のものの約5倍の活性を示した。これらの事実や植物中に注入された唾腺酵素は食物とともに腸中に吸われそこで消化に参加するという過去の知見に基づいてマキバメクラガメの中腸中にあるプロテアーゼの1部は唾腺から来たものであると考えられる。6.唾腺アミラーゼ活性は本虫の住んでいる環境温度が非常に低下したとき,あるいは長い飢餓の後に低下する傾向にあった。唾腺アミラーゼとプロテアーゼ活性は季節的に,個体別におよび生育段階で変化した。これらの実事は多くの研究者によって他の昆虫で行なわれた研究の結果と類似した。1匹のカメムシの1対の唾腺の各々の間に生ずる酵素活性の変異はアミラーゼで小さくプロテアーゼで大きかった。またアミラーゼとプロテアーゼ活性との間の相関は有意でなかった。したがって唾腺におけるアミラーゼとプロテアーゼの生産は互いに全く独立した系によって支配されていると考えられる。7.唾腺と中腸アミラーゼの反応最適温度はpH7において約37℃であったが,中腸のものはpH5において60℃に移動した。これらアミラーゼの最適pHは37℃において約5.0であった。この最適pHは他のメクラガメのものと類似し他の昆虫に比しかなり酸性であった。8.唾腺アミラーゼはでん粉を分解し中間産物としていくらかの寡糖類を生産し,最終産物としてマルトースを生産した。これは唾腺がα-アミラーゼのみを含むことを示す。一方中腸は上の糖に加えてグルコースを生産した。このことは中腸がインバーターゼ(α-グルコシダーゼ)を含むという別のテストと一致した。9.唾腺酵素のでん粉分解活性は常に中腸のものより高く平均して前者は後者の約2倍の活性を示した。このことは本虫のでん粉消化に関し唾腺アミラーゼが中腸アミラーゼより重要であることを示す。10.唾腺と中腸アミラーゼ活性はNO_3^-とCl^-によって強くそして硫酸イオン(SO_4^<-->によって弱く促進された。また銅(Cu^<++>)と水銀イオン(Hg^<++>)によって強く抑制された。この性質は唾腺と中腸内容物アミラーゼと,それらの全体ホモゲネートアミラーゼと同じであった。さらに唾腺アミラーゼ活性はグルタミンによって強く,アスパラギン,アスパラギン酸およびグルタミン酸によって中程度に促進された。その他のアミノ酸や他のいくつかの有機酸によって弱く促進された。11.pH7.0におけるKNO_3の唾腺アミラーゼ活性促進効果はKNO_3の約10^<-5>Mから現われ10^<-3>と10^<-1>Mの範囲で最高に達しそれから急に減少した。一方pH7.0におけるNaClの促進効果はNaClの濃度の9.2×10^<-3>Mから6.8×10^<-2>Mの範囲で最高であった。12.KNO^3とNaClの唾腺と中腸アミラーゼ活性促進効果はpHが高くなるにつれて増加しそれらアミラーゼの最適pHである約5.0においても生じた。KNO_3またはNaClの存在において唾腺アミラーゼの活性はpHの広い範囲に広がり,その最適pHは約5.0から約6.0まで移動した。13.唾腺アミラーゼ活性に対するCl^-とNO_3^-の促進効果は酵素反応のすべての時間中に生じ,かつ反応初期ほどその効果が高かった。促進効果はカメムシの生育適温である20〜30℃においてもまだ十分に高かった。14.2つの唾腺アミラーゼ活性促進剤NaC1とKNO_3の混合物の促進効果は一般に各々の成分の促進効果の単純な和として与えられない。その成分の1つが最高の促進効果を示す濃度であったとき,それに加えられた他の成分の効果は完全に隠されてしまった。これに反し各成分の濃度がそれぞれの最高効果を示さぬ濃度の時その混合中の両成分は促進剤の働きをした。各成分の促進効果が十分に小さいような濃度のときだけ,混合物の促進効果は各成分の促進効果の和で表わされる。KNO_3とグルタミンの混合物においてもほとんど同じ傾向にあった。15.唾腺と中腸アミラーゼ活性は色々な植物抽出液や同じ昆虫の中腸抽出液によって強くあるいは中程度に促進された。pH7.0におけるナタネ花蕾の促進効果は10^<-3>から10^<-4>の濃度で現われ始め7.5×10^<-2>で最高に達した。この促進効果は植物中に含まれるCl^-,NO_3^-,グルタミンまたはそれらの混合物によって生ずるらしい。また中腸抽出液の促進効果は特に腸壁に含まれるCl^-やグルタミンそれに植物から由来する腸内容物中のCl^-,NO_3^-,グルタミンまたはそれらの混合物に依存するのだろう。16.生の馬鈴薯でん粉は本昆虫の消化アミラーゼによってほとんど消化されなかったが,生の小麦でん粉はかなりよく,また生のとうもろこしでん粉は中程度に消化された。生のでん粉の消化に対するCl^-とNO_3^-の促進効果は馬鈴薯では存在せず,とうもろこしで強く,小麦で中程度であった。一般に昆虫からのアミラーゼは生のでん粉を消化しないとされていたが,2,3の文献で反論がみられた。本昆虫の消化アミラーゼは後者のほうに属した。17.不溶性でん粉が煮沸されるとその消化性は改良され小麦ととうもろこしと馬鈴薯間でほぼ等しくなった。煮沸不溶性でん粉の消化に関するCl^-とNO_3^-の促進効果は生の不溶性でん粉や煮沸可溶性でん粉のものを越えた。18.用いられたすべての多糖類が唾腺アミラーゼによって分解された。その分解程度の高いほうからデキストリン,アミロペクチン,可溶性でん粉,不溶性でん粉そしてデキストラン(これはほとんど分解されなかった)の順であった。反対にCl^-とNO_3^-による消化促進効果は逆の順で減少した。かくして活性剤の存在のもとで消化性は多糖類間でほぼ等しくなった。19.中腸内容物のpHは第1中腸から第2中腸までわずかに減少し,その平均は約5.0であった。そのpHは大きな緩衝能力を持った食物によってかなり影響された。時々本昆虫が植物を食したときでも5.0から5.8までそのpHが変化した。20.Cl^-を含まぬ食物を食したカメムシの中腸中にCl^-はわずかな例外を除き検出されなかった。このことはこのイオンが実際に中腸に存在しないかあるいはその中に取入れられたCl^-を含まぬ食物によって大いに希釈されたことを示す。したがってCl^-(また多分NO_3^-も)の大部分は中腸中にそのイオンを含む食物から取入れられるのであろう。21.でん粉消化はすでに第1中腸で始まり通常第2中腸でほとんど完成された。可溶性でん粉の中腸中における消化は幾分NaClとKNO_3の存在によって促進された。22.炭水化物は本昆虫の生育にとって必須であった。カメムシにとってでん粉は庶糖と同じ栄養価を持った。23.Cl^-とNO_3^-による唾腺アミラーゼの活性化に関しカメムシ科はタイプ(A)に分類され,ナガカメムシ科はタイプ(D_1),メクラカメムシ科はタイプ(D_2)に分類された。
- 1973-07-20
著者
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