有性生殖系統とアポミクシス系統の交雑で生じたギニアグラスのアポミクシス品種「ナツカゼ」の細胞学的解明
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概要
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ギニアグラスのアポミクシス品種「ナツカゼ」は初期生育に優れ,生産力も高いことから,夏季の青刈,乾草用飼料作物および線虫抑制効果を備えた緑肥として暖地および温暖地で一年生栽培がなされ,その栽培面積は拡大傾向にある。この「ナツカゼ」はタンザニアから探索導入された二倍体有性生殖系統GR297とアポミクシス系統との自然交雑によって生じ,アポミクシスによって固定された雑種であることが知られているが,染色体数,染色体行動,および詳細な生殖様式の調査は行われていなかった。根端細胞で調査した「ナツカゼ」の染色体数は2n=32の四倍体であり,花粉母細胞の減数分裂の調査では0〜7個の四価染色体が出現した。母本のGR297が二倍体であることから,「ナツカゼ」はGR297の非還元卵と四倍体のアポミクシス系統の還元花粉との受精によって生じた可能性が高い。ヨード・ヨードカリ法による花粉稔性の調査では,「ナツカゼ」の染色花粉率は77%と四倍体アポミクシス系統のKu5954(50%)とほぼ同じであるが,二倍体の母本であるGR297(90%)よりはやや低くなり,四価染色体の出現によって低率ではあるが不稔花粉が生じていることがその原因と考えられた。放任受粉による「ナツカゼ」の種子稔性は46%とGR297およびKu5954とほぼ同程度でああった。しかし,袋掛け受粉による「ナツカゼ」の種子稔性は33%とKu5954よりも低く,また,GR297は自家不和合性を示し,2%と低かった。胚嚢分析による生殖様式の調査では,「ナツカゼ」は有性生殖率が約11%の条件的アポミクシスであった。この有性生殖率は自然界に存在するアポミクシス系統であるKu5954(2%)と比較して高く,また,アポミクシス胚と有性生殖胚が混在する胚珠の出現率も高いことがわかった。しかし,圃場での放任受粉で得られた種子を次年度圃場に展開して60個体の後代検定を行った結果では,オフタイプの出現はなく,この有性生殖胚がほとんど機能していないことが示唆された。
- 日本草地学会の論文
- 1993-12-20
著者
-
清水 矩宏
草地試験場
-
中川 仁
広島県立農業技術センター
-
HANNA Wayne
USDA-ARS, University of Georgia, Coastal Plain Experiment Station
-
Hanna Wayne
Usda-ars University Of Georgia Coastal Plain Experiment Station
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