稲種子の休眠現象に関する生理学的研究 : とくに発芽抑制物質との関連において
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
本研究は, 稲種子の休眠現象を, 外的あるいは内的要因の関連のもとに発芽抑制物質の消長に主点をおいて解析したものである.1,稲種子内生の伸長および発芽抑制物質とオーキシンの生物検定並びに化学的検定(1)休眠種子と休眠覚せい種子に内生する伸長抑制物質とオーキシンの検定休眠種子群と休眠覚せい種子群から得られた伸長抑制活性とオーキシン活性は酸性エチルエーテル分画に認められた.イソプロパノール : アンモニア水 : 水(8 : 1 : 1)で展開したペーパークロマトグラムのRf0.4-0.6にオーキシン活性, Rf0.6-0.8とRf0.9-1.0に伸長抑制活性が検出された.オーキシンは全ての種子に共通して存在したが, 2つの伸長抑制物質つまりRf0.6-0.8(物質Aと呼ぶ)とRf0.9-1.0(物質Bと呼ぶ)は, 休眠種子群のみに存在が認められ, また, それらの活性が強休眠性品種で大きく, 弱休眠性品種で小さい傾向が認められたことから, 休眠性の要因物質であろうと推定された.(2)稲剥離胚を用いた発芽テストによる発芽抑制物質とオーキシンの検定休眠種子から得られた物質Aと物質Bの剥離胚の発芽に対する発芽抑制作用を検定した.両物質はともに稲種子の発芽を抑制する発芽抑制物質であることが証明された.また, 両物質の発芽抑制作用については, 物質Aが物質Bよりもかなり強力であることが明らかとなった.一方, オーキシンは低濃度で発芽を促進し, また, 物質Aの発芽抑制力を弱める作用を有した.(3)休眠種子内生の発芽抑制物質とオーキシンの化学検定休眠種子内生の物質A, 物質Bおよびオーキシンのクロマトグラフィーによる同定を試みた.オーキシンと物質Bは, エーリッヒ試薬に対して, それぞれ青色と赤色の呈色反応を示し, いずれもインドール化合物であろうと推定された.さらに, オーキシンは薄層クロマトグラフィーによる比較検定のRf値と呈色からIAAと推定された.物質Aはガスクロマトグラフィー分析でシスABAとトランスABAと同定された.とくに強休眠性の品種Ketaktaraの最深休眠期に着目した場合, 種子内生のABAの組成は, 多量のシスABAと微量のトランスABAよりなり, 種子内生のシスABA量は280μg/kg以上であると概算された.2 稲休眠種子の発芽抑制物質およびオーキシンの存在部位まず, 休眠種子を穎と玄米の2部位に分けて, それぞれの発芽抑制物質とオーキシンをアベナ伸長テストで検定した.物質Aと物質Bはともに両部位に存在するのに反し, オーキシンは玄米部位のみに存在することが明らかとなった.つぎに, 休眠種子を穎, 胚乳および胚に分けて検定したところ, 物質Aと物質Bはいずれの器官にも存在することが明らかとなった.そして, 各器官の発芽抑制物質の活性はほぼ同程度であったので, 重量比からみて, その濃度は胚でもっとも高く, 次に穎で高く, 胚乳で低いと推定された.一方, オーキシンは胚乳に大部分が存在すると推定された.3 自然条件下での休眠覚せい過程の推移と発芽抑制物質とオーキシンの消長との関係(1)休眠覚せい過程における発芽抑制物質の消長強休眠性の品種Hadsaduriの種子を供試して, 種子を穎と玄米に分けて, それぞれに内生する発芽抑制物質の活性変化と休眠との関係を解明するために, 開花後20日目より休眠覚せい終了期までに数回にわたってアベナ伸長テストによる検定を行った.開花後20日目の種子の両部位には物質Aと物質Bの活性がともに強く, そして, 両物質の活性は休眠覚せいの進行に伴って低下した.この関係は, 両物質が種子の休眠覚せい過程に関与していることを明確にするものであった.つぎに, 休眠性程度の異なる4品種の籾種子を用いて, 物質Aについて品種間差異をみた.全品種とも物質Aの活性変化と休眠覚せい過程の推移とはほぼ完全な符合を示し, 上記のHadsaduriにおけると同様の関係が認められた.(2)稲の剥離胚の発芽による(±)-ABAの発芽抑制力の検定5段階の濃度の(±)-ABAを添加した培地に休眠終了種子の剥離胚を置床して, 24時間毎に発芽率を測定した.置床後日数別の発芽率の差から, ABA濃度間の発芽抑制作用の差異を検出しうることが明らかとなった.検出しうる濃度範囲は0.001mg/l〜1mg/lでありその10^<-1>mg/lの濃度間におけるABAの発芽抑制力の差異を検定しうるものであった.この検定法は休眠種子から得られる微量物質の稲種子の発芽に対する作用を定量的に検定するのに有効であろうと推定された.(3)休眠覚せい過程における発芽抑制物質の消長強休眠性Hadsaduriの休眠種子(発芽率0%), 休眠覚せい中の種子(発芽率33%)および休眠終了種子(発芽率98%)から得られた物質Aと物質Bの発芽抑制作用を剥離胚の発芽テストによって検定した.発芽抑制作用は両物質とも休眠種子でもっとも強く, 休眠覚せい中の種子では, 休眠種子よりも弱く, 体眠終了種子では, 物質Aの微弱な作用のみが認められた.
- 1986-03-15
著者
関連論文
- 紫果物時計草の人工受粉による結果率および果実品質の向上
- 土壌水分に対するサトウキビ品種の生育反応の比較 : 地域適応性を異にするNCo310とNi1の比較 (品種・遺伝資源)
- 真正種子(TPS)由来のスモールチューバー(small tuber)の効率的な生産法の確立
- ヤムイモ(Dioscorea spp.)の生育並びに塊茎の肥大生長について : 第3報 ジベレリンがダイジョ(D.alata L.)の茎葉及び塊茎の生長並びに休眠に及ぼす作用
- 牛糞堆肥の施用がメロンの生育,収量,品質と培養土の理化学的性質に及ぼす影響
- ダイジョ(Dioscorea alata L.)塊茎の肥大生長の転換と内生ジャスモン酸含量の推移との関係
- 26. ジベレリンがダイジョ(超極早生系統)およびナガイモの生育に及ぼす作用
- ダイジョ(Dioscorea alataL.)塊茎の肥大生長の転換と内生植物ホルモンとの関係
- In vitroにおけるダイジョ(Dioscorea alata L.)幼植物の生育およびミニ塊茎の肥大生長に及ぼす植物生長調節物質の作用
- ダイジョ(Dioscorea alata L.)の生育に及ぼすジベレリン, アブシジン酸およびウニコナゾールPの作用
- ネパール高地から導入されたダイジョ(Dioscorea alata L.)系統の温帯における生育特性
- 形態的形質およびRAPD法によるヤムイモ(Dioscorea spp.)の種の分類と系統の区分
- ジャガイモにおけるsmall tuberを利用した種イモ生産並びにGA処理による休眠打破
- ダイジョ(Dioscorea alata L.), ナガイモ(D.opposita THUNB.)およびジネンジョ(D.japonica THUNB.)の光周反応
- ダイジョ(D.alata L.)とナガイモ(D.opposita THUNB.)およびジネンジョ(D.japonica THUNB.)における諸形質の比較
- 稲種子の休眠現象に関する生理学的研究 : とくに発芽抑制物質との関連において
- ダイジョ(Dioscorea alata L.)塊茎の休眠覚せいと内生ジベレリンとの関係
- ダイジョ(Dioscorea alata L.)塊茎の休眠並びに休眠覚せいと外的要因との関係
- 25. ダイジョ塊茎の休眠期におけるジャスモン酸の量的変化
- 水稲苗代期の低温障害に関する研究 : 低温処理が稲体の諸形質におよぼす影響 (形態)
- 水稲苗代期の低温障害に関する研究 : 1.低温処理が稲体の諸形質におよぼす影響
- 稲種子の休眠性および発芽性に関する研究 : IX 酸素および水分が種子の休眠解除並びに発芽抑制物質の不活性化に及ぼす影響
- 稲種子の休眠性および発芽性に関する研究 : VIII 登熟中並びに収穫後の温度条件が種子の休眠および穎の変性に及ぼす影響
- 稲種子の休眠性および発芽性に関する研究 : VII.剥離胚の発芽による発芽抑制物質の検定並びに種子の休眠程度との関係
- 農場技術調査報告書の発刊に当たって
- 稲種子の休眠性および発芽性に関する研究 : XI.休眠解除と内生ジベレリン様物質との関係