サンゴノフトヒモ(溝腹綱)によるイソギンチャクの捕食
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概要
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溝腹類は世界中から240種が知られているが,その生態についての情報は乏しい。溝腹類は少数の例外を除いて刺胞動物を食物としていることが知られているが,摂餌の様子が直接観察された例は大型で細長い体をもつカセミミズ属Epimeniaのみで,他の多くは消化管内容物に見られる刺胞から判断されたものである。また刺胞動物の種類も宿主であるヒドロ虫類やヤギ類などに絡みついて採集されもの以外は殆ど分かっていない。著者の1人佐々木は淡青丸による遠州灘沖の生物調査において,イソギンチャクに付着した溝腹類を採集した。溝腹類がイソギンチャクを摂餌する様子を直接観察した例はこれまでないと思われるのでここに報告する。採集された個体はトロール網曳網の刺激によって急激に強く収縮したため,イソギンチャクをくわえたまま引揚げられたと思われる(図1)。採集された種は太短く,体表に中実の針状小棘と,樋状の小棘(図2)をもつことからサンゴノフトヒモ属Neomeniaの種であることは間違いなく,体の大きさや採集された位置,深度(水深763〜796m)からおそらくサンゴノフトヒモNeomenia yamamotoi Baba, 1975と同定される。またイソギンチャクは千葉県立中央博物館の柳研介博士に同定を依頼し,クビカザリイソギンチャク科Hormathiidaeの種であることがわかった。イソギンチャクは海底では上部口盤側は海底から上方に伸びていたと考えられる。したがってサンゴノフトヒモは海底から口盤まで体を起こした状態あるいは這い上がって,摂餌していたと思われる。さらに付着している様子を観察すると,サンゴノフトヒモはイソギンチャクの口盤の縁,触手の密生する部分を吻ではさんでいる。サンゴノフトヒモ属は歯舌や顎板のような食物を切り取る硬い組織を欠いているが,口から突出可能な吻(前腸)をもち,これには種類によって数の異なる複数の括約筋が附属する。また,対になった腹部前腸腺を欠くものの,吻部には多数の単細胞腺が附属する。このようなことから,サンゴノフトヒモ属はSalvini-Plawen(1985)が歯舌を欠く溝腹類の摂餌様式として推測した方法,すなわち餌を消化酵素で溶かしながら吸引する方法によってイソギンチャクを摂餌することが想像される。サンゴノフトヒモ属は外套膜のクチクラ層が薄いがその下にsubepidermal matrix又はground substanceと呼ばれる厚い層をもっている。この組織の性質については知られていないが,今回の観察から,イソギンチャクの触手や槍糸などの刺胞に対する防御機能があることが考えられる。
- 日本貝類学会の論文
- 2005-12-31
著者
-
佐々木 猛智
The University Museum, The University of Tokyo
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齋藤 寛
国立科学博物館動物研究部
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斎藤 寛
国立科学博物館動物研究部
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齋藤 寛
国立科学博物館
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齋藤 寛
Department of Zoology, National Science Museum
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佐々木 猛智
The University Museum The University Of Tokyo
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齋藤 寛
Department Of Zoology National Science Museum
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