日本近海産の珍らしいイカ類について I : 太平洋域から新記録の Joubiniteuthis portieri
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概要
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1971年5月駿河湾興津に漂着したミズウオの胃中からJoubiniteuthis portieri (JOUBIN, 1912)に同定されるイカが1個体発見された。同種について最近YOUNG・ROPER (1969)が極めて綿密な覆査を行ったので, 分類学的にこれに付け足すべき知見は殆ど無いが, 従来知られている8個体がすべて大西洋から記録されていて, この発見が9番目の記録であり, 同時に太平洋域から新記録であるので報告する。本種は1科1属1種で, その特徴は : (1) 外套膜後方に糸状に長く延長する"尾"部があること, (2) 漏斗軟骨器は単純な楕円状, 外套軟骨器は同じく単純な瘤状, (3) 腕が第IV腕を除いては細く長く基部から尖端に向って極めて微小な吸盤列が2列から4, 6列に変化すること, (4) 触腕が長くむち状で, 掌部が狭く長く8∿12列の吸盤が密に配列すること, などである。本標本は極めて微細な点でYOUNG・ROPERの記載と異るが個体変異の域を出ないと考えられ, 同種に同定して差し支えない。大西洋ではその垂直分布は330∿2, 500mと考えられているが, ミズウオの胃中に見られる他の生物やこれまでの食餌の研究結果からみて, 駿河湾ではこのイカは水深150m前後で捕食されたと考えられる。しかしながらこれは駿河湾に見られる湧昇流のため本来深海にすむものが比較的浅所に分布するためか, 捕食したミズウオが他の餌生物より深い所でこのイカを捕えたのかは明らかでない。
- 日本貝類学会の論文
- 1972-06-30
著者
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