森林の広域・長期的な試験地から得られる成果と生き残りのための条件(<特集2>大規模長期生態学研究とは何か?)
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
日本で例外的に広域または長期におこなわれてきた森林研究の成果のうち、いくつかを紹介した。第一に、北上山地でミズナラの種子落下を23年間(1980-2002年)調査した研究では、際立った豊作(健全種子100個/m^2以上)が1987年と1996年に見られ、そのほかの年では30個/m^2以下の低値安定であった。種子生産の豊凶を示す変動係数(CV)は20年以上の観測をおこなわないと安定した値が得られないことが示された。第二に、東北地方の国有林の約150の森林事務所(範囲は200×500 km)でブナの結実状況の視認が1989年以来継続してきている。2000年までの12年間に、観測点の8割以上で並作以上だったのは1995年と2000年の2回のみであった。それ以外の年では、東北地方の一部でのみ結実するか、またはほとんど結実がみられなかった。結実が同調しているスケールは60-190 kmと判断されたが、これは広域調査をおこなったからこそ把握できた知見である。一方、ブナの花芽形成のトリガーの検出には、林分単位で気象条件をモニタリングする必要のあることが示唆された。これらのブナやミズナラの長期・広域での結実モニタリングから、それを餌とする野生生物の保全管理に有益な情報が提供されることが期待される。第三に、スギ人工林(明治41年植栽)を間伐した試験地で、昭和28年(45年生)から平成14年(94年生)までのモニタリング結果に基づいて、スギの成長を個体ベースで解析した。どの林齢でもスギの直径成長は周辺の自己より大きいスギの胸高断面積合計から負の影響を受けていた。また、45年生時点での各個体のモデル予測値と実測値の差分を計算し、それをモデルの説明変数として加えたところ、それ以降の林齢でモデルの決定係数が0.1-0.2ほど改善された。これは、森林動態予測モデルの開発や、長伐期経営における個体管理技術に貢献する成果である。一方、天然林動態の長期観測研究は開始されてからまだ約10年で、群集動態のメカニズムの解明には至っておらず、さらなる長期観測が重要であると考えられた。林業を産業として再生することなしに、長期・広域観測による森林の科学的研究を深化させることは困難であることを論じた。
- 日本生態学会の論文
- 2005-08-31
著者
-
正木 隆
森林総合研究所森林植生研究領域
-
正木 隆
森林総合研究所
-
柴田 銃江
森林総合研究所
-
Shibata Mitsue
Tohoku Research Center Forestry And Forest Products Research Institute
-
正木 隆
農林水産技術会議事務局
関連論文
- モニタリングサイト1000森林・草原調査コアサイト・準コアサイトの毎木調査データの概要(学術情報)
- 日本における動物による種子散布の研究と今後の課題(大島賞受賞者総説)
- 本州以南の食肉目3種による木本果実利用の文献調査
- Effects of population density, sex morph, and tree size on reproduction in a heterodichogamous maple, Acer mono, in a temperate forest of Japan
- 東北地方のブナ林天然更新施業地の現状 : 二つの事例と生態プロセス(天然林施業に貢献する生態学)
- 双眼鏡を用いたミズナラの結実状況の評価
- 年輪解析による秋田佐渡スギ天然林の成立過程の推定
- 天然林施業のツールとしての生態学(天然林施業に貢献する生態学)
- 日本の森林研究の拠点における個体群研究 森林樹木のデモグラフィー研究 - 3つの大面積プロットにおける試み-
- Genetic and reproductive consequences of forest fragmentation for populations of Magnolia obovata
- 森林の結実変動とクマの出没(クマ出没の生物学)
- ブナ林再生の応用生態学, 寺澤和彦・小山浩正編, 文一総合出版, 2008年4月, 312ページ, 3,780円(税込), ISBN978-4-8299-1071-9(ブックス,Information)
- 群落生態学からみた長伐期施業
- ブナ皆伐母樹保残法施業試験地における33年後,54年後の更新状況 : 東北地方の落葉低木型林床ブナ林における事例
- フィールドステーションの紹介 : 小川試験地(野外研究サイトから(4))
- 長期観測プロットの作り方と樹木の測り方
- ミズキの生活史 : 鳥による種子散布は本当に役立っているか
- 森林の生態を長く広く観てみよう
- 森林の生態学の魅力
- 製品紹介 多機能バケット--もっと便利な油圧ショベルに--プロバケット
- 森林の広域・長期的な試験地から得られる成果と生き残りのための条件(大規模長期生態学研究とは何か?)
- 第2章 長伐期施業のシミュレーション--個体ベースモデルの活用 (長伐期施業の展望と課題)
- スギの長伐期施業林とブナ等広葉樹の天然更新地での議論か : 第2回森林施業研究会現地検討会
- 日本の森林研究の拠点における個体群研究 カヌマ沢渓畔林試験地 -地表変動と密接に関係した森林ダイナミクス-
- まばらな分布をするハリギリ個体群における繁殖成功と個体間距離について
- 高齢・高密度のアカマツ林の間伐は個体の成長を改善するか
- 発芽生物学 : 種子発芽の生理・生態・分子機構
- 樹木の一斉開花結実はなぜおこるのか--マスティングの実態と適応的意義
- 多くの樹種が同時に結実する意味を考える
- 日本の森林研究の拠点における個体群研究 樹木のマスティング研究における大面積長期観測試験地の有効性 -小川でのクマシデ属4種の種子生産の年変動観測-
- 広葉樹の天然更新完了基準に関する一考察 : 苗場山ブナ天然更新試験地のデータから
- Pa-104 森林からバイオマスを強度に収穫する事の経済性と林地の健全性の両立は可能か : 森林総合研究所の取り組み(ポスターセッション1:1.資源,研究発表,(ポスター発表))
- 鬼怒川流域における水辺林の群集組成と成立環境
- Fleshy fruit characteristics in a temperate deciduous forest of Japan : how unique are they?
- 森林生態学からみた複層林施業
- 広葉樹の天然更新完了基準に関する一考察
- The Forest Structure and Tree Death Rate of Forest Stands Damaged by Japanese Oak Wilt in Yamagata Prefecture
- Effects of Seed Size and Chemical Variation on Seed Fates in a Deciduous Oak Species Quercus serrata
- トチノキの当年生実生の水分生理特性
- 白神山地における異なった構造をもつブナ林の動態モニタリング(白神山地の保全と周辺部の持続的利用に向けて I. 白神山地の森林の分布とダイナミクス)
- 岩手県雫石町のアカマツ-落葉広葉樹二段林におけるアカマツ抜き伐り後の林分構造の変化
- 森づくりの心得-森林のしくみから施業・管理・ビジョンまで-, 藤森隆郎著, 全国林業改良普及協会, 2012年12月, 353ページ, 3,675円(税込), ISBN978-4-88138-283-7(ブックス,Information)