中国人2,3,4歳児と母親,および母親と大人他者の対話における中国語助数詞の使用

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仲は日本人の幼児と養育者(母親)の対話を分析し,(1)幼児の年齢が上がるにつれ,母親は一般的助数詞「個,つ」の使用を減らし,特殊な助数詞「枚,本,杯」の使用を増やしてゆくこと,(2)母親は幼児の言語レベルに応じたフィードバック(子「1!」-母「そう,1個ね」;子「1個!」-母「そう,1本ね」等)を行っていることなどを示した(Naka, in press)。母親はなぜ,一般的助数詞から特殊な助数詞へと助数詞を変化させるのだろうか。幼児は「個,つ」を過拡張して用いており,母親にとってはこの過拡張に付き合うことが最も効率的なコミュニケーションであるからだろうか。それとも「個,つ」はいわば助数詞の基礎レベルであり,示差性が意味をなさない幼児との対話においては,基礎レベルを用いるだけで十分なのだろうか。それとも「個,つ」から獲得を開始させることにこそ,何らかの効率性があるのだろうか。例えばしばらくの間,用いる助数詞に制約をつけておくことで,母親は幼児にとって「数+NC(助数詞)」の規則性を獲得しやすい状況を作っているのかもしれない。今までに得た資料から考察するならば,母親による一般的助数詞の使用は,幼児の過拡張を反映しているという仮説だけでは説明されないように思う。母親はフィードバックによって,子どもの不適切な助数詞使用を訂正する。また,幼児は2歳をすぎると「個」を「つ」よりも多く用いるようになるが,母親は一貫して「つ」を「個」よりも多く用いる。さらに幼児の「個」の使用は増加してゆくが,母親は「個」の使用を減少させる。子どもに通じやすい助数詞を用いているというだけでは,母親の助数詞の変化は説明できそうにない。また,示差性の伝達が意味をなさない幼児に対しては,基礎レベルの助数詞を用いるという説もあまり説得力がない。そもそも助数詞がコミュニケーションで担う意味は小さく(Matsumoto, 1981),もしも「個,つ」が基礎レベルであるのならば,大人との対話においても「個,つ」はもっと用いられてよいだろう。限られた助数詞を用いることによって,「数+NC」の規則性を獲得しやすい状況を作り出すという説にも難点がある。もしも規則性を重視するならば,母親は「個」と「つ」の二種類ではなく,どちらか一種類だけを用いる方が合理的である。しかしながら,「個」と「つ」がほぼ同じ機能をもつ助数詞であることを考えると,「個」に加え「つ」を用いること(あるいは「つ」に加え「個」を用いること)と,「個,つ」に加え「枚」あるいは「本」といった第三の助数詞を加えることにはギャップがあるようにも思える。使用する助数詞を三種類や四種類ではなく,「個」と「つ」の二種類までにしておく,ということに意味があるのかもしれない。本研究は,他の助数詞言語における母子の助数詞使用を調べることで,(1)助数詞の使用には日本語の場合と同様,一般から特殊へという方向性が見られるのか,(2)助数詞の使用は母子間でどの程度一致するのか(子が「個,つ」を過拡張して用いるために,母親も子に合わせて「個,つ」を多用する,という可能性を検討する),(3)母親の子に対する助数詞使用と大人に対する助数詞使用とに違いはあるのか(母親が大人に対しても「個,つ」を多用するのであれば,母親は子に対し,「個,つ」を基礎レベルとして多用している可能性がある),(4)母親は子どもに用いる助数詞に制約をつけているのか,といった問題を検討する。比較言語的にアプローチすることで,助数詞という,直接目で見ることのできない概念の伝達に関わる言語的入力について明らかにできないかと考える。なお,日本の2歳児は多くの事物に「個」を用いるが,人を数える時にも「個」を用いるのだろうか。助数詞獲得の初期にあっても,幼児は生物と非生物に関する分類学的な知識を用い,生物に対する助数詞(「人」等)と非生物に対する助数詞(「個,つ」等)とを使い分けているかもしれない。将来,日本においても比較資料を収集することを前提に,中国ではこの点も検討することにした。
1999-02-28

中国人2,3,4歳児と母親,および母親と大人他者の対話における中国語助数詞の使用

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