琉球列島のチビゴミムシ類
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概要
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大隅群島を除く琉球列島からこれまでに見つかったチビゴミムシ類は, わずかに2属4種しかない。そのうちの3種はホソチビゴミムシ属Perileptusのもので, 他の1種は, アトスジチビゴミムシ属TrechoblemusのトカラチビゴミムシT. microphthalmus S. UENOである。ホソチビゴミムシ類のうちでは, 東アジアに広く分布するホソチビゴミムシP.japonicus H. W. BATESのみが既知で, 残りの2種はそれぞれ新種および新亜種と認められる。これらには, アサヒナホソチビゴミムシP. asahinai S. UEONおよびリュウキュウホソチビゴミムシP. laticeps ryukyuensis S. UENOという新名を与え, この論文で記載した。アサヒナホソチビゴミムシは, 西表島の仲良川で発見されたが, フィリピンのパラワン島にも分布する。九州から紀伊半島にかけての太平洋岸に分布し, 比較的大きい河川の河口部に限って生息するウミホソチビゴミムシP. morimotoi S. UENOに類縁が近く, やはり河口部の潮間帯にすんでいる。本土の種とのおもな差異は, 複眼がひじょうに大きくて頬部がほとんど認められない点と, 体表の微細彫刻がいちじるしく減退していることとにある。近縁種は南西太平洋にもうひとつあり, 全体として, 太平洋の西側を取り巻くような形の分布模様を示している。リュウキュウホソチビゴミムシのほうは, 本州, 四国, 九州および対馬に広く分布するオオホソチビゴミムシP. laticeps S. UENOの亜種で, 奄美大島と沖繩本島とから見つかっている。基亜種との差異は, 複眼の大きさ, 頬部の発達の程度, 前胸背板の形状などに明らかに見られる。近縁種はアジア南部に広く分布し, そのひとつは遠くニューヘブリディーズ諸島に達している。これら4種のチビゴミムシ類に共通する特徴は, どの種も水辺で生活し, トカラチビゴミムシ以外の3種がよく発達した後翅をそなえていることである。トカラチビゴミムシも, 飛翔に役立たぬ程度には萎縮しているものの, なお原形を残した後翅をもち, 島嶼型としての歴史がそれほど古いものではないことを思わせる。したがって, これらの種の祖先型は, 陸橋を伝って琉球に分布したものではなく, 偶然の力に運ばれて琉球に定着したものと考えてよかろう。アサヒナホソチビゴミムシは, おそらくフィリピンから海流に運ばれて八重山群島に拡散したものであり, 他の3種は, たぶん東シナから風に運ばれて琉球に侵入したものであろう。九州方面から吐〓喇海峡を越えて琉球へ拡がったと考えられる種がひとつもなく, 風や海流などの進路がすべて北へ向かっていることも, このような推定の裏付けになる。奄美・沖繩の両群島で, オオホソチビゴミムシが特別の亜種に分化し, ホソチビゴミムシのほうもある程度の固有化現象を示していることから考えると, 琉球の中央部は比較的早い時期から隔離されていた, とみてよかろう。琉球唯一の固有種であるトカラチビゴミムシも, 今のところ吐〓喇群島の宝島でしか見つかっていない。これらの種の祖先は, 東シナ海が現在より狭かった過去の時代に琉球中央部へ渡って, そこに隔離され, 分化してきたものであろう。同じホソチビゴミムシでも, 八重山群島や大隅群島のものは, これらの島じまが琉球列島の両端に位置するにもかかわらず, 地理的な変異を示さない。これらの島じまの個体群は, 中央部のものより遅れて定着したか, あるいは, 大陸や日本本土からの新しい侵入者とのあいだにたえず交雑を行なってきたものと考えられる。潮間帯にすむアサヒナホソチビゴミムシは, 西表島とパラワン島とのあいだでほとんど変異を示さない。したがって, 比較的新しい時代の移住者とみてよかろう。
- 国立科学博物館の論文
- 1974-09-20
著者
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