原始的な形質を残すキタメクラチビゴミムシ類

概要

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キタメクラチビゴミムシ類 Oroblemus は, アトスジチビゴミムシ群 Trechobemus series に含まれる小さい属を形成し, これまでには本州北端部に分布する2種のみが知られていた。アトスジチビゴミムシ群では, 完全な複眼とよく発達した後翅をもち, 北半球の温帯に広く分布する属と, 複眼も後翅も完全になくなって分布域の局限されたものとがよく知られているが, 痕跡的な複眼をもち, ほかの点でも中間の適応段階にあるキタメクラチビゴミムシ類に比肩できるのは, 天山山脈のソビエト側から知られる Oroblemites の1属1種があるに過ぎない。しかもこれらの2属は, その祖型とみられるアトスジチビゴミムシ属よりさらに原始的な形質をとどめているので, 単に属群の中の系統をたどるのに役立つだけでなく, 属群自体の由来を追究するためにも貴重な存在である。しかし, キタメクラチビゴミムシ属の既知の2種はいずれも個体数が少ない上に, 第二の種は雌のみしか知られていないので, この属に関する十分な解析がなされたとはいえなかった。昨年になって, 同属の種があい次いで2種発見され, 属内の変異の様子がある程度まで明らかになるとともに, 属の分布域もほぼ推察できるようになった。これらの新種を含めて, 現在知られているキタメクラチビゴミムシ類の種名と産地は次のようになる。 1) イワキメクラチビゴミムシ O. caecus S. UENO et A. YOSHIDA-青森県岩木山 2) シモキタメクラチビゴミムシ O. sparsepilifer S. UENO-青森県恐山北国山 3) チョウカイメクラチビゴミムシ O. subsulcipes S. UENO, sp. nov.-山形県鳥海山 4) サドメクラチビゴミムシ O. katorum S. UENO, sp. nov.-新潟県佐渡ドンデン山および金北山図7からも明らかなように, これらの4種は, 直線距離で420km に及ぶ広い地域に散在し, 外部形態もとくに体表をおおう細毛の分布にいちじるしい拡散を示すので, 種相互の系統関係や分布の経路を正しく把握するのは非常にむつかしい。しかし, 同じ属群に含まれるクラサワメクラチビゴミムシ属 Kurasawatrechus の種と同所的に分布しないことは, ほぼ確実だと考えられるので, キタメクラチビゴミムシ類の分布域は, 東北地方の日本海側を中心に細長く延びているのだろう。また, これまでに知られている北限と南限, つまり下北半島と佐渡が, おそらく属の分布域の両端に当たるものと思われるので, 未発見の種の産地がこの範囲から大きくはずれる可能性はほとんどない。キタメクラチビゴミムシ類は, おそらく東北地方日本海側の山地で分化した属で, 地下の環境にすみついた時期もそう古いことではなかったのだろう。既知種のうちのひとつが, 佐渡の地下浅層に隔離されている, という事実は注目に値するが, ほかの種のすべてが新しい火山で地中性になっている, という事実とともに, この属の起源が比較的新しいことを示す証拠のひとつだ, と考えてよさそうに思われる。
国立科学博物館の論文
1983-12-01

原始的な形質を残すキタメクラチビゴミムシ類

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