<専報>対馬産のチビゴミムシ類
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概要
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対馬からこれまでに見つかったチビゴミムシ亜科の甲虫類は5種ある。そのうちの2種は, 土生と馬場(1959,p. 77)によってすでに記録されているが, 残りの3種はこの論文で新たに報告するものである。これら5種のチビゴミムシ類のうち, 4種までが大きい複眼とよく発達した後翅をもち, 対馬以外の地域にも広く分布している。最後の1種は地中性で, 複眼も後翅も体の色素もなく, 明らかに対馬固有の種と考えられる。 有翅の4種のうちの3種はホソチビゴミムシ属に含まれるもので, それぞれホソチビゴミムシ Perileptus japonicus H.W. BATES, オオホソチビゴミムシ P. laticeps S. UENO およびツヤホソチビゴミムシ P. naraensis S. UENO と呼ばれる。最初の種は, 日本と朝鮮半島を含むアジア東部に広く分布しているが, 北部地域への拡散は比較的最近に行なわれたものらしい。また, あとの2種は, 今のところ日本列島以外から知られていないが, 朝鮮半島にも分布している可能性がある。いずれにしても, これらの種のすべてが, おそらく西日本から対馬へ侵入したものであろう。 ホソチビゴミムシ類は, ほとんどつねに流水の近くにすみ, 生息場所が乱されたり危険が迫ったような場合にはすぐ飛び立つし, 灯火に渠まってくる性質もある。体が微小でしかも活動的な昆虫にとっては風が拡散の動因になり得るので, 対馬海峡や朝鮮海峡のような狭い水域が, ホソチビゴミムシ類の拡散に対する決定的な障害になったとはまず考えられない。上記の3種も, 新第三紀以降のどの時期にでも対馬へ侵入し得たであろうが, 実際に定着が行なわれたのは案外新しい時代のことなのではなかろうか。 有翅の他の1種ヒラタキイロチビゴミムシ Trechus ephippiatus H.W. BATES は, シナからシベリアにかけて広い分布域をもち, 西日本へは朝鮮半島を経て侵入したものと考えられる。したがって, 分布域の広い有翅の種であるとはいうものの, その由来はホソチビゴミムシ類の場合とかなり異なっている。対馬への定着がいつどうして行なわれたかを知る手掛りは少なく, しかも信頼性に乏しい。しかし, ヒラタキイロチビゴミムシのような甲虫の移動に陸橋が不可欠であろうとは必ずしも考えられないので, 現存の対馬産の個体群はそれほど歴史の古くないものかも知れない。 以上の有翅種に比べると, 盲目で地中性のチビゴミムシは, より古い時代から対馬にすみついてきたものらしい。この種は, アトスジチビゴミムシ群に属する新種で, 西日本の内帯に分布するノコメメクラチビゴミムシ属 Stygiotrechus S. UENO と類縁の近いものである。しかし, 体表をおおう細毛がなく, 前頭部と頬部とにそれぞれ1対ずつの剛毛があり, 前胸背両側の背面剛毛列が弧状に並んだ多数の剛毛から成り, また上翅側縁部の第5丘孔点が前方へ移動して第6丘孔点から遠く離れているので, これを西日本の種と同じ属に含めるには無理がある。そこで, この種と, 同じ系列に属すると考えられる韓国産の洞窟性チビゴミムシ類とに対して, チョウセンメクラチビゴミムシ属 Coreoblemus S. UENO という新しい属を立て, 前者をツシマメクラチビゴミムシ Coreoblemus venustus S. UENO と命名した。チョウセンメクラチビゴミムシ属とノコメメクラチビゴミムシ属とは, 同じ属群のうちでも比較的原始的な地位を占め, 分布の様子も散発的, 遺存的である。しかも, これら2属の分布域が対馬海峡によって明確に区分されている点を合わせ考えると, ツシマメクラチビゴミムシの祖先が対馬に定着した時期はかなり古く, 対馬を含む朝鮮陸塊と西日本とが古対馬水道によって隔てられていた時代, おそらくは第三紀の中新世にまで遡るのではないかと推察される。 なお, この対馬産の地中種は, 朝鮮半島の石灰洞にすむ同属の種に比べて, かなり特異な分化を遂げている。とくに, 前趺節における雄の第二次性徴が基節だけにしか現われていない点は, 一般に属や亜属の標徴として用いられるほどチビゴミムシ類に例の少ない形質である。それで, 新属の模式種には, より普遍的な特徴をそなえた韓国産の種の一つを選び, その記載を属の記載に合わせて論文末につけた。属模式種 (Coreoblemus parvicollis S. UENO) の産地は, 韓国忠清北道堤川郡清風面北津里の清風風穴, 模式組標本は南宮〓氏によって採集されたものである。
- 国立科学博物館の論文
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