東北地方におけるウスグロヤガおよびムギヤガの周年経過 : II. 成虫の誘殺消長と夏眠および移動の関係
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概要
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岩手県内の標高の異なるいくつかの地点における成虫誘殺結果から, ウスグロヤガおよびムギヤガ成虫の活動経過は次のように推定された.ウスグロヤガ : 亜高山帯以下では, 成虫が初夏と秋の2回に分かれて活動する.その出現消長および既報の幼虫分布調査結果からみて, これらの成虫は主として平地で羽化したものと考えられる.一方, 盛夏期には高山帯の石下に潜伏する成虫が発見される.雌の卵巣の成熟は秋期に低地においてのみ認められる.これらのことから, 本種は個体群全体として低地で繁殖し, 高山帯へ移動して越夏したのち, 秋に再び低地へ帰ると推測される.高山帯における成中の夜間活動は越夏期の後半に著しく低下するらしく, 灯火にほとんど飛来しなくなる.越夏完了期には再び活動が盛んになり莫大な数の成虫が灯火に誘引されるので, この時期に低地への帰りの移動が始まるものであろう.ムギヤガ : 平地での成虫誘殺消長はウスグロヤガに似るが, それが完全に中断することがなく, 2回のピークの間隔がより短く, また第1回のピークが判然としないことがある点で異なっている.これらのことは, 夏眠期間がウスグロヤガよりも短く, また一部の成虫が平地に残存することを意味しよう.低山地では平地よりも羽化が遅く夏眠期が短いため, 多くの個体は高地へ移動することなくその場で繁殖活動に入る可能性が大きい.亜高山帯, 高山帯で認められる成虫はすべて低地から移動してきた越夏個体とみなされるが, 越夏期間中を通じて灯火への飛来が続き, また越夏成虫の石下潜伏は高山帯においてのみ認められる.帰りの移動はウスグロヤガよりも早く始まるようである.山形県の高山帯における調査により, この2種の越夏期間が岩手県におけるよりもやや長いことが示唆された.既往の知見をも参照した結果, 両種の高地へ移動して越夏する習性は暖地に向かうにつれて顕著に発現するようになり, 同時に越夏場所と繁殖場所とが上下に隔離して行くこと, また, それに伴って越夏期後半の成虫の夜間活動も低下することが推測された.繁殖場所は一般に低地に偏るが, 分布域の比較的冷涼な地帯においてはある程度の高地まで拡がり, この場合, 岩手県でムギヤガに認められたような, 多様な発生経過をたどる個体を生じると考えられた.ただし, 種によって地理的分布の範囲が異なるため, 同地点においては越夏習性に種間の差異を生じるであろう.
- 日本昆虫学会の論文
- 1983-03-25
著者
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