水産環境の科学, 成山堂書店, 2002年, A5判, 180頁, 2,800円
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概要
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水産業が持つ多面的な環境保全機能が認識されるにつれて,健全な水域を保全することは安全でおいしい食糧を生産するだけではなく人類の生存によっても不可欠であることが広く理解されてきた。本書はこうした背景のもとに水産大学校の教官ないしは関連教官にとって水圏環境科学に関わる話題をオムニバス形式で紹介したものである。全体は八章に分かれ,順に「水の不思議をミクロの目で調べる」,「海中の光」,「リモートセンシングによる潮汐・海流の推定」,「小さな大洋-日本海の不思議-」,「海洋拡散現象-海水中の汚濁物質やプランクトン群集-」,「砂浜の生態と保全」,「内湾水域の物質循環と水産増養殖」,「餌生物の海洋環境と日周鉛直移動」と題された章のそれぞれが完結し独立している。各章は,はじめにキーワードにより概要が提示され,図表を多用し,親しみやすい例示を盛り込むなど読者の理解を図る工夫がされており,興味深い話題に満ちている。例えば第四章「小さな大洋」は読み物として良く纏められており高度な内容が平易な記述で表され,日本海における海水循環研究の面白みと地球温暖化問題における位置が明瞭に伝わる。また,第五章「海洋拡散現象」ではシアー拡散が丁寧に説明されており従来の物理学の教科書にはない具体的な記述により,生物系の読者にも十分分かりやすいものとなっている。第六章「砂浜の生態と保全」では限られた紙面にも拘わらず砂浜の生態学を要領よく整理し,砂浜の保全における生態学研究の必要性を示している。第七章「内湾水域の物質循環と水産増養殖」では三陸の大船渡湾における研究事例をもとに養殖環境における物質循環理解の必要性を具体的に説いている。しかしながら章によっては専門用語や数式が不十分な説明のままに使われていて引用文献からだけでは理解を得ることが難しい記述があり,その分野の大学院生や研究者でない読者にとっては助言者が必要と思われる。また,章によっては水産環境との関連性が分かりづらい節があり,本書が学部学生や院生に対する講義や演習の副読書としてのねらいを持って書かれていることをうかがわせる。こうした難点はあるが全体として本書は水産・海洋関連の読者にとっておもしろい読み物となっており,水産環境を俯瞰する手引きとなっている。
- 2003-03-15
著者
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