マウスhybrid胎盤に存在するpaternal histocompatibility antigenの定量的検討 (in vitroおよびin vivo)
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概要
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夫婦とはもともと他人であるにも拘らず, 夫由来の抗原を有する胎児ならびに胎盤が何の拒否反応も受けず母体の子宮内で無事に発育しうる事は実に不思議な現象としてこれ迄種々の検討がなされてきた. しかし妊娠中母児間に免疫反応が全く存在しない訳では無く, 妊婦または経産婦の1/3〜1/4が夫のhistocompatibility antigenに対して抗体を有する事が確認されている. これらの抗体は妊娠中母体血中に流入した胎児の白血球または胎盤細胞に対して産生されたものと考えられている. 一方胎盤の抗原性についてSimmons et al. (1962) はtrophoblast表面にはhistocompatibility antigenは存在しないと述べ, Kirby et al. (1964) はtrophoblastにはhistocompatibility antigenは存在するがその表面をsialomucin membraneが密にcoatingしているために同抗原は絨毛間腔には直接接し得ないと主張している. いずれにしろ母体血と直接接する部位にpaternal histocompatibility antigenの存在しない事は確かである. ところが同じ胎盤でも母体血から遠く離れた間質細胞などにはpaternal histocompatibility antigenの存在する事がSchlesinger (1964) により証明されている. また免疫グロブリンのうちIgGは胎盤を自由に透過しうる事もすでに認められている. これらの事実を考え合わせると妊婦血清中に存在するpaternal histocompatibility antigenに対する抗体はどのような運命をたどるのであろうか. 胎盤を自由に通過しうるのか, あるいは胎盤通過の途中対応抗原であるpaternal histocompatibility antigenに免疫反応によつてcatchされるのか, またはその何れでもあるのか非常に興味が持たれる次第である. 今回著者らはこの問題についてマウスを用いて実験的に検討を加える事を試みた. すなわち近交系であるC57BL/6Jマウスの脾細胞で他の近交系C3H/Heマウスを免疫し, 生じた抗体をpH2.2, 0.1M HCl-glycine bufferを用いて2回続けて精製する事により, 同種免疫によつて得た抗体としては非常に感度の高い精製抗体を得た. この精製抗体を用いてC57BL/6Jオスマウスとmatingして妊娠したC3H/Heメスマウスからhybridの胎盤を摘出し, 胎盤細胞に存在するpaternal histocompatibility antigenの値を脾細胞のそれと比較した. その結果hybridの胎盤細胞1個に存在するpaternal histocompatibility antigenの値は脾細胞1個のそれの約1/3であつた. この値は一見かなり大量のpaternal histocompatibility antigenがhybridの胎盤細胞に存在する様に見えるが, 胎盤細胞1個の占める体積が脾細胞約20個に相当する事を考えるとhybridの胎盤細胞に存在するpaternal histocompatibility antigenは僅かであると云える. 次に上記の精製抗体をC57BL/6Jオスマウスとmatingして妊娠したC3H/Heメスマウスに投与して胎盤への実質附着率をpaired labelled technicを用いて検討した所, 投与量の僅か0.3%が免疫反応によつて附着したにすぎなかつた. これらの成績から, 妊娠個体血中に存在するhistocompatibilityantigenに対する抗体のうち免疫反応によつて胎盤に附着するのは僅かであり, その殆んどは胎児に自由に移行しうると考えられる.
- 社団法人日本産科婦人科学会の論文
- 1972-10-01
著者
-
都竹 理
大阪大学医学部産科婦人科学教室
-
中室 嘉郎
大阪大学医学部産科婦人科学教室
-
小川 誠
大阪大学医学部産科婦人科学教室
-
根来 孝夫
大阪大学医学部産科婦人科学教室
-
小川 誠
大阪大
-
中室 嘉郎
大阪府立病院
-
若尾 豊
大阪大学医学部産科婦人科学教室
-
根来 孝夫
大阪大学医学部産婦人科学教室
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