羊水塞栓症の成因並びに病態に関する実験的研究 : 殊に胎便成分の果たす役割について

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羊水塞栓症は,従来,羊水中の微粒物質による肺動脈の物理的塞栓によつて,発症すると考えられて来た.本症にはショックが必発し,極めて重篤な経過を辿るが,死亡した患者の剖検所見では,重篤なショック症状を惹起する程,肺に大量の微粒物質が証明されるとは限らず,従つて本症の成因や病態をこの物理的塞栓のみで説明することは出来ない.共同研究者の棚源(1975),尾池(1976)は,胎便上清の化学的成分に血液凝固亢進性物質が存在し,これは羊水塞栓症の起因物質の1つであろうと推論した. そこで著者は,この物質を胎便から抽出し,次いでこの抽出物質の各種生物学的作用を明らかにして,抽出物質が本症の成因や病態に如何なる役割を果たしているかを検討した.その結果,1) 胎便から血液凝固亢進性蛋白分解酵素を抽出した.至適pH 7.4,分子量35.4×10^4であつた.2) 抽出した物質の生物学的作用について検討した.本物質はin vitroでもin vivoでも血液凝固亢進作用,及び血小板凝集作用をもち,著明な血液凝固異常を発生せしめることがわかつた.更に蛋白分解作用をもち,この作用はTrasylolでは阻害されるが,EACA,trans-AMCHAでは阻害されない.また本物質の投与により血圧下降,血管透過性亢進,白血球遊走などもひき起こされることがわかった.抽出物質のもつ,これらの作用が羊水塞栓症に伴うショック発生に関与するものと思われた.尚これらの作用は,trypsinのもつ生物学的作用に類似し,従つて本物質は胎便に存在するtrypsin様物質ではないかと考えられた.3) 羊膜にはtrypsinのinhibitorであるα_1-antitrypsinが存在することを螢光抗体法により明らかにした.これは上記物質の血中流入への防禦機構になつていると考えられる. 以上,羊水塞栓症の成因には,胎便の化学的成分,即ち血液凝固亢進性蛋白分解酵素(恐らくはtrypsin)が関与すること,更にこの物質は羊水塞栓症に必発するショックの病態にも関与することを明らかにした.
社団法人日本産科婦人科学会の論文
1976-06-01

羊水塞栓症の成因並びに病態に関する実験的研究 : 殊に胎便成分の果たす役割について

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