卵巣腫瘍におけるK-ras遺伝子の点突然変異の検討
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概要
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1989年12月〜1992年6月までに手術を施行した卵巣腫瘍35例を対象として, その腫瘍組織におけるK-ras gene codon 12の点突然変異(point mutation ; PM)を検討し, 以下の成績を得た. 1. 卵巣腫瘍35例中5例(14.3%)にK-ras gene codon 12のPMが検出された. この5例はすべて上皮性悪性腫瘍であり, すべてcodon 12の塩基対がGGT→GATのtransitionのtypeであった. 上皮性悪性腫瘍は30例(LMP 2例を含む)でそのPM検出率は16.7%であった. 臨床分期別のPM頻度はI期3/11(27.3%), II期1/3(33.3%), III期1/14(7.1%), IV期0/2(0%)であり, I, II期の比較的早期例にPM率が多かった. 2. 組織型別のPM率は衆液性悪性腫瘍(うち1例LMP)が16例中3例(18.8%), 粘液性悪性腫瘍(うち1例LMP)が5例中2例(40.0%)であったが, clear cell carcinoma 7例, erdometrioid carcinoma 2例とその他4例ではPMが認められなかった. 3. 漿液性と粘液性悪性腫瘍につき, 卵巣腫瘍被膜の性状により侵襲群と非侵襲群とに分けた. また腹水細胞診結果も陽性群と陰性群に分けてPM検出率を分析した. 被膜侵襲群では3/11(27.3%), 被膜非侵襲群では2/10(20.0%)にPMが検出され, 両群間に差が認められなかった. 腹水細胞診の陽性群と陰性群の両群においてもPMの検出率に差が認められなかった. 4. 卵巣上皮性悪性腫瘍について, PM陽性例の5例と陰性例8例の腫瘍の割面捺印細胞診所見とPMの関係をみた. 細胞診所見は核形, 核の大きさ, N/C比, クロマチン分布状態, 核小体の大きさおよび核小体数について検討した. PM陽性群では核小体数がPM陰性群に比べて, 多いという傾向を認めたが, 他の細胞診所見は関係がなかった. 5. 35例中6例が死亡し, その死亡例はすべてPM陰性であり, 進行癌の症例であった. 6. K-rasのPMを検討した35例中一部の症例につきC-myc, erbB-2, K-rasの増幅を分析した. 結果はK-rasの増幅が19例中1例(5.3%)にのみ認められた. 以上の結果から, K-ras gene codon 12のPMは卵巣腫瘍においてはoncogene異常の主なeventといえる. またPMは臨床的な癌の進行を示すparameter (腫瘍被膜性状, 腹水細胞診および予後など)とは無関係であったが, 比較的早期症例に多く発見されていることから, PMは卵巣腫瘍においてはoncogene異常の主なeventのほか, 癌化へのearly eventの一つではないかと推測された.
- 社団法人日本産科婦人科学会の論文
- 1993-11-01
著者
-
平井 康夫
癌研究会附属病院
-
梅澤 聡
癌研究会附属病院
-
荷見 勝彦
癌研究会附属病院
-
清水 敬生
癌研究会附属病院
-
片瀬 功芳
癌研究会附属病院
-
梅沢 聡
癌研究会附属病院産婦人科
-
藤本 郁野
癌研究会附属病院婦人科
-
山内 一弘
癌研究会附属病院婦人科
-
平井 康夫
癌研有明病院細胞診断部
-
清水 敬生
国際医療福祉大学附属三田病院 女性腫瘍センター
-
藤本 郁野
癌研究会附属病院
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