摂食障害の認知行動療法 : その利点と問題点(摂食障害に対する治療の最近の進歩)(第37回日本心身医学会総会)
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概要
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摂食障害に対する認知行動法(CBT)は, 近年西欧と同様に本邦においても広く用いられるようになってきた。今回の発表の目的は, 接触障害のCBTの利点と問題点を明らかにし, それに対する考察を深めることである。まず, 利点として挙げられるのは, (1)実験的に効果の確認された行動技法を利用できる。(2)少なくとも神経性過食症に対しては認知的技法本来の効果が期待できる, (3)治療を支持的に進めやすい, といった点である。これらの利点について, CBTによる治療を受け約1年で回復した神経性食欲不振・過食症の1例を提示しながら考察を深めた。この症例には、治療効果が十分に実証されているオペラント条件づけ技法と自己主張訓練が基本的に有効であった。しかし、その自己主張訓練もカッツマンらの心理教育的アプローチを導入する前にはうまくいかなかったことから、心理的教育、セルフモニタリング, 認知再構成法も治療全体の中で一定の役割を果たした可能性があると考えられた。さらに, 以上のような多面的な治療そのものが患者にとってかなり支持的に働いた可能性も考えられた。一方、問題点としては、特に神経性食欲不振症に対して、(1)治療動機のなさや身体・心理面の相互作用のために、定期的なCBTの戦略を改変する必要がある。(2)認知的技法が有効であるとする根拠がはっきりしない, さらに, (3)治療関係の形成に関して有効性が確認された具体的な指針が示されていない, といった点が挙げられる。以上のうち(2)は摂食障害にCBTを用いる前提が未確立であるということを意味していると考えられるが, 実際これまでのところ, さまざまな認知的変数がどのように摂食障害の発病や憎悪につながるのかという点はほとんど明らかにされていない。そこで, さまざまな認知的および行動的変数間の因果的連鎖の中で「自己評価に関する信念」が決定的な役割をしていることを示したわれわれの研究結果を提示した。つまり、もし仮に「自己評価に関する信念」を変えることができれば, それに続けて, 極端なダイエット行動といった摂食障害の症状を含むほかの変数も変えることができる可能性があり, この結果からは摂食障害に対する認知的介入の有効性が支持されたものと考えることができる。そして, 摂食障害にCBTを適用するための科学的根拠を十分に確立するためには, さらに多くの関連ある研究の遂行が必要であることを提言した。
- 1996-12-25
著者
-
久保木 富房
東京大学医学部附属病院心療内科
-
熊野 宏昭
東北大学医学系研究科人間行動学分野
-
末松 弘行
東大分院心療内科
-
久保木 富房
東京大心療内科
-
松本 聰子
吉村病院心理室
-
末松 弘行
川村学園女子大学
-
松本 聰子
早稲田大学大学院人間科学研究科
-
久保木 富房
東京大学:楽山病院
-
久保木 富房
東京大学医学部分院心療内科
-
松本 聰子
早稲田大学人間科学研究科
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