東南アジア諸国林野制度の比較制度史的研究 (II) (林学科)
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
以上において東南アジア諸国林野制度の歴史的展開過程を見る中で,各宗主国によって植民地でとられた間接統治政策の特質が,それぞれの林野制度をどのように規定し,性格づけているかを分析してきた。はじめに各宗主国植民地林野制度の異質性(=独自性)から論じ,つぎにそれを比較・検討して一般的性格(=共通性)を明らかにする。「欧米資本主義の東南アジア植民地間接統治政策と林野制度」の視点から追求した東南アジア各宗主国植民地林野制度の異質性は以下のごとくなろう。(1)フランスのインドシナ植民地化は,その経済の産業資本主義段階から始められ,植民地化が具体的に確立したのは,帝国主義段階においてであった。統治政策の特質は,閉鎖的な同化政策を基調とする協同主義的間接統治政策となり,その統治政策は保護領に対して施行された。フランスは該領の植民地化とともに自国資本による林野の資本制的開発を促進せしめる意図から,そこの林野をすべて国有林として囲い込んだ。仏独占資本が植民地化当初から主に栽植農業の開発に集中したため,山林管理経営のための組織の整備は非常におくれていた。だが,フランスは仏印における資本主義の発達に伴い,該領を長期にわたって自国資本のために安全に開発せしめる必要が生じてくると,膨大な国有林の管理を放置状態にして置くことができなくなってきた。その時から資本制的山林管理経営制度の整備が着手し始められたのである。フランスは山林局を各保護領にも設置したが,もちろんそれは保護領の支配者である仏人理事長官の監督下に置かれ,土着民行政組織からまったく遊離して存在した。すなわち閉鎖的な協同主義政策の下での行政・経済部門では,一般に土着民の立場は無視状態に置かれ,つねに仏人優先政策が強引に採用されるため,山林管理経営の一切は,土着の伝統的権力を利用することなく,フランス権力によって行われた。この場合,フランスは保護領の広大な山林を管理経営するために,自国官吏のみによる管理の立場をとらず,土着民をも山林官吏として起用したのである。だが,上級官吏はすべて仏人であり,下級の現場担当官吏は土着民であった。こうした山林局の人事機構には閉鎖的な協同主義政策の精神が非常に強く現出していたものと考えられる。フランスは下級官吏として土着民を山林官吏の業務につかせることを重視-またそのことは他の植民地においても同様のことであるが-した。なぜなら,自国官吏は高級であり,その多数の採用は植民地財政の圧迫に結びつき,財政の圧迫は植民地を資本のために統治する国家権力のつとめにそむくことになるからである。また政府は資本の要求に答えて,人民の自由伐採制度を規制して森林を資本の側に組み込む山林法制を確立することになった。そしてその実施は保護領では理事長官が行った。なお資本の目的に対応した林木払下制度も確立したけれども,それは閉鎖的な間接統治政策の影響を強く受けて,保護領の採取的林業開発を保護領民に正式に認めているが,その開発から外国資本を排除している。しかし,仏資本も産業政策の偏倚性に規定されて,その開発に参加していない。結局,土着の零細資本のみが山林局から伐採権を取得し,かつ一定の森林税を納入して,採取的林業開発へ従事した。そのため該領の採取的林業開発は遅れることになったのである。山林局の森林収入は黒字基調となって,植民地財政の拡充に奉仕したが,一方育成的林業は進展を見なかった。このように仏印の林野制度は,閉鎖的な間接統治政策の特質に強く規定されて,林野を自国資本のために包摂して行ったのである。(2)オランダのインドネシア植民地化は,その経済の重商主義段階から始められたが,植民地化が具体的に確立したのは,産業資本主義段階から帝国主義段階にかけてであった。小国オランダの統治政策の特質は,土着権力活用主義的間接統治政策であった。その政策は内領と外領に存する直轄地と土侯自治領に適用されたが,それが最も典型的に現われたのは後者においてであった。直轄地は内領が代表し,自治領は主に外領に存した。オランダは該領の山林を自国資本に開発せしめるために,そこの山林のほとんどを国有林とした。国家的林野所有の実態も,間接統治政策の特質の影響を受けて,直轄地の国有林と自治領の自治領林から形成されていた。内領には商品価値の高いチーク林が存したので,オランダはドイツ式の山林管理経営方式を積極的に導入して,チーク林を主体とする近代的山林管理経営制度を確立して行った。山林局人事組織においては上級官吏はほとんどオランダ人となり,下級官吏はすべて土着民であった。山林法制も資本の林業開発を促進せしめる形で整備されて行った。内領森林の管理・処分の基本権は山林局にあったが,自治領での雑木林自由処分権及びチーク林収入の分収権を土侯に認めた。オランダはこのよう
- 1975-12-01
著者
関連論文
- 中国黒竜江省松花江林業管理局における森林経営の展開
- 経済改革以降における国有林の新たな展開 : 中国黒竜江伊春林業管理局を事例として
- 最近の沖縄本島における森林組合と沖縄県森林連合会の経営に関する研究
- 東南アジア諸国林野制度の比較制度史的研究 (II) (林学科)
- フィリピンの林野制度 (I) : スペイン植民地期(林学科)
- 沖縄県における森林組合作業班の活動特性
- 中国南方集体林における株式合作林場経営に関する一考察 : 湘南省靖州県芳団三組株式合作林場の事例を中心にして
- 戦前期の沖縄県における薪木の流通構造について(林学科)
- 琉球列島の森林・林業に関する若干の所見(生物生産学科)
- 沖縄県における林業事業体の経営に関する研究
- 日本の林業生産の特質に関する研究(生物生産学科)
- 沖縄島北部における常緑広葉樹林とリュウキュウマツ林の土壌の理化学性比較
- 中国黒竜江省牡丹江林業管理局における木材生産経営の展開
- インドネシアの林産物輸出拡大政策と木材市場の特徴に関する研究
- 戦後の沖縄県における木材市場の展開 (II) : 輸入材について(林学科)
- 中国南方集体林における工程封山育林林業株式合作制度 : 湖南省叙浦県の事例を中心にして
- 中国南方集体林における所有形態と経営方式の歴史的変遷 : 湖南省の事例を中心にして
- 中国南方集体林区の実態とその特徴
- 本土復帰後の沖縄県の森林組合経営に関する研究
- 経済改革開放下の中国南方集体林における林業株式合作制度の展開 : 湖南省靖州県の事例を中心にして
- 中国黒竜江省牡丹江林業管理局における木材流通の展開
- 新中国建国後における湘南省造林・緑化事業の展開
- 沖縄県の特用林産物の生産・流通に関する研究
- 沖縄県国頭村・東村民有林の林業的利用に関する研究
- 沖縄島北部における常緑広葉樹林の林分構造と樹種多様性(Journal of Forest Research)
- 沖縄県産材の加工・流通に関する研究
- 戦後の沖縄県における木材市場の展開 (I) : 島産材について(林学科)
- 琉球列島の森林・林業の実態に関する特別報告(英文和訳資料)(林学科)