沖縄に分布する Phytophthora 属菌と植物疫病とくにパインアップルしんぐされ病に関する研究(農学科)
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概要
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この論文は, 1)沖縄に分布するPhytophthora属菌の種類と宿主範囲を明らかにし, 各宿主から分離した菌株間の形態, 卵胞子形成, 病原性などについて比較を行ない, 2)パインアップルしんぐされ病について, 沖縄における分布を調べ, 病原菌と宿主の関係を究明し, 防除法について論じた。沖縄で発生するPhytophthoraの種類は, P. cinnamomi(宿主はパインアップル), P. colocasiae(サトイモ), P. cyperi(シチトウイ), P. infestans f. sp. infestans(ジャガイモ, トマト), P. nicotianae var. parasitica(オクラ, ネギ, パインアップル, パパヤ, キュウリ, クジャクサボテン, トマト, ニガウリ, タバコ, ニチニチソウ), P. palmivora(ピーマン), P. sp.(ナス, シュンギク)の7種類である。宿主としてニガウリとシュンギクは新しい記録である。P. nicotianae var. parasiticaは, 宿主範囲が広く, その被害も大きい。また, 宿主のちがいによって, その形態, 病原性に変化がある。例えば, 遊走子のうの大きさ, ことに長さにおいて, 平均値の最も小さい36μ(宿主はネギ)から, 最も大きい47μ(パパヤ)まで, ほぼ連続的に変異がある。沖縄産Phytophthoraの中には, Smootらが発見したと同様に, 卵胞子を形成するための2つの菌糸和合性グループ(Sexually compatible mating groups, A^1 and A^2)がある。A^1に属する菌株は, P-2,3,4,6,7,8,9,10,11,12,13,10(2), 10(3), 10(4), 10(5), 11(2), 11(3), があり, A^2に属する菌株には, P-1,5,10(6), があることがわかった。A^1とA^2の対峙培養によって形成される卵胞子の数と大きさには差がある。A^2のP-5とA^1の対峙においては, 同じくA^2のP-1とA^1のそれよりも卵胞子形成数が多く, 卵胞子の大きさも前者がはるかに大きい。なお, A^1の菌株間の比較では, 一部形成数の差が認められたが, 卵胞子の大きさはほとんど差がなかった。以上のことから, Heterothallic菌の対峙培養によって形成される卵胞子の性質(少なくとも形成数と大きさ)は, いずれか一方の性(ここではA^2のP-1,P-5など)によって決定されるものと考えられる。対峙培養によって得られた卵胞子の発芽率は, 比較的高く, 67%もあり, 発芽適温は20℃付近で, 最高発芽に要する最短時間は約8時間である。発芽はほとんど発芽管を出して発芽するが, 発芽直後に遊走子のうを形成せず, 大部分は発芽直後から発芽管あるいは菌糸が肥大変形し, 分岐が多いことが特徴である。沖縄産PhytophthoraのP-1からP-13までの菌株を使用して, パインアップルの葉, 各種の幼植物, 果実に対する接種試験の結果, 幼植物に対して, A^2のP-1が他の菌株に比べて弱い病原性であること, 同じくA^2のP-5が供試果実すべてに対して病原性がないことが注目される。パインアップル葉に対しては, 病原性の差が明らかに現われ, ほぼつぎの4グループに分けられる。すなわち, 1)最も病原性の強い菌株, P-10; 2)やや強い菌株, P-3,4,7,8,1; 3)弱い菌株, P-5,9,12,6,11; 4)最も弱い菌株, P-2,13である。沖縄におけるパインアップルしんぐされ病は, パインアップル栽培全地域にわたって発生しているが, ことに, 石垣島では, 他の島に比べて著しく多い。発生時期は, 秋から翌年の初夏にかけてみられ, 苗の植え付け後2∿3か月目の発生が著しい。病原菌は2種類あるが, Phytophthora cinnamomiは1地区に認められただけで, 他のすべての発生地での病原菌はP. nicotianae var. parasiticaである。パインアップル葉の白色部と緑色部に遊走子を接種すると, 発芽率の差は認められないが, 発芽管は, 緑色部よりも白色部において著しく伸長し, 附着器形成率は, 白色部よりも緑色部においてはるかに高い。病原菌を葉の白色部に接種すると, 頂葉から25葉あたりまでは発病するが, 第26葉以下の下葉ではまったく発病が認められない。また, よく発病する1枚の葉についてみると, 葉の基部から2∿3cmまでは, 接種すると発病するが, 基部から4cm以上離れた点に接種してもまったく発病しない。このような現象は, パインアップルの細胞膜の厚さと関係が深いと考えられる。すなわち, 葉の表面近くの細胞膜の厚い緑色部では, 遊走子の発芽後に発芽管の伸長が抑制され, その先端が異常に膨らみ, また, 侵入が妨げられるが, 葉の基部の細胞膜の薄い白色部では, 遊走子の発芽が正常に行なわれ, 容易に侵入発病するものと考えられる。本病を防除するには, キャプタン剤(オーソサイド)あるいはマンネブ剤(マンネブダイセン)の400倍液に苗を浸漬して植えたあと, 降雨のないときは30日毎に薬剤散布を行ない, 降雨の多いときは15日あるいは7日おきに薬剤散布をする必要がある。また, 11月から翌年の4月までを薬剤散布の時期と決めて, 上記の方法を適用すると本病の防除は可能である。
- 琉球大学の論文
- 1974-12-01
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