「森林環境税」による新たな森林整備に関する研究
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概要
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近年,総称して「森林環境税」と呼ばれる都道府県による独自税の導入が広がり,地方分権の下で自治体による森林環境政策が模索されている.税目的が明確なため,導入後数年を経て,税事業の効果を厳しく問われることになる.先行研究では,高知県を中心に先発県を事例として税導入の合意形成過程が主に考察され,税事業の内容と実績に関する比較研究はない.そこで本稿では,①各県のホームページ等の情報から導入県の事業内容の特徴を分類し,比較検討を行い,②事業内容の異なる岡山県と熊本県を事例として,県担当者への聞き取り調査と税事業及び既存事業に関する予算と実施要項等に関する資料収集によって,「森林環境税」導入過程における県民意識と議論過程が税事業の内容をどのように規定したのか,また税事業の実績を既存事業との関係で比較した.更に,③多くの県で新たな事業と位置づけられている,強度間伐による針広混交林化事業の実施状況,特に森林所有者の同意状況に関して,熊本県を事例に,県の出先機関と森林組合での資料収集に基づいて分析した.その結果,多様な事業内容の中で,多くの県が荒廃人工林の間伐事業を中心としていること,しかし,その手法は,林業支援とリンクさせた従来の間伐補助事業と同様の事業を補助対象の拡充で実施している県(岡山県型)と行政が費用の全てを負担し直接強度間伐を実施し,混交林化を進める事業(熊本県型)に分けられることがわかった.岡山県では税導入の議論の際,森林環境の向上には林業の担い手対策や所有者への間伐補助金を行うことに対して県民の理解が得られたこと,一方の熊本県では新税導入に際して,私財支援に対する県民の反対意見が強く,県による強度間伐の直接整備に限定する形で県民の理解を得たために林業支援との厳しい切り分けがなされている.税事業実績と既存事業の分析によって,岡山県では森林整備と林業就業者確保に新税が有効であり,施業の放棄を未然に防ぐことや,結果として木材供給量が増加することが見込まれた.しかし,森林を放棄した所有者の森林までの整備には至らず,更には既存事業との差違が明確ではないため,既存事業の税事業化によって間伐予算総額では減少していることが明らかとなった.一方,熊本県では,不在村所有者や非森林組合員など林業に関心がなかった所有者が強度間伐を承諾しており,森林整備事業の対象を広げるという効果が上がっている.一部では新税の呼びかけによって,林業への関心が高まり既存事業による利用間伐増加の効果を確認した.しかし,熊本県の税事業は既存の林業支援と切り離すための厳しい条件が付与されており,事業に無縁な意欲ある林業者には不満が大きいこと,強度間伐に対して台風リスクへの危惧などのため事業承諾が進まない地域が見られた.以上の考察から,「森林環境税」の導入は,歳入額という点では限定的であるものの,納税者への説明責任が果たしうる地方自治体による森林・林業施策の政策開発力を高めることが示唆された.具体的な事業化の課題としては,既存の事業と切り分けた事業にすると同時に,意欲ある森林所有者や林業者が取り組める内容を盛り込むことが必要だと思われる.そのためには,未間伐林の強度間伐だけではなく,より高い環境配慮基準の設定とその遵守に対する直接支払い的な仕組みを提示することが求められる.更に,税事業の目的に森林の水土保全機能の向上だけではなく,温暖化抑止の寄与などを組み込むことによって,現在未利用が条件となっている強度間伐材の利用促進に対しても税使途の正当性を与えることが可能だと思われる.Under the decentralization policy, since 2000 local governments have had right toindependently set up tax. A new taxation termed "Forest Environmental Tax" hasbeen widely introduced by prefectures. As of January 2007, 16 prefectures hadintroduced this tax. This paper aimed to deliberate the objectives and policy scheme ofthe new tax and to compare the tax’ s effectiveness and problems between theprefectures of Okayama and Kumamoto.Okayama prefecture attempted forest maintenance projects by promotion of forestry,which is similar to the method of conventional thinning subsidies for forest owners.On the other hand, Kumamoto prefecture designed new projects which are not linkedwith the forestry promotion. Kumamoto local government paid all heavy thinningcosts, directly implemented the operation, and forbade the forest owners to bring outand sell the thinning logs. Both prefectures could get steady result of thinningpromotion. However in Okayama the new revenue brought about decrease of existentbudget for forest and forestry section. And in Kumamoto active forestry householdsand forest cooperatives were disappointed with the new tax and urging the policy wasfaced on some difficulties.
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