森林認証取得への期待と現実
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概要
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認証取得組織が認証取得に向けて新たに取り組んだ事項として,多くの組織が「森林認証の理念を実際の作業現場レベルにまで徹底させる為の取組み」と「認証審査に要する資料の作成(施業体系の明文化)」を挙げている.これらの点は同時に,取得に向けた取組みの難点としても挙げられており,今後の制度普及においても難点になり得ると考えられる.認証取得が森林管理面に与えた影響としては,上記の事項に加えて「現場レベルにおける実際の施業方法や作業員意識の変化」が挙げられた.経営面への影響としては,認証材の価格上昇はそれほど見受けられないものの,販路の拡大に成功したとする組織が多数存在している.また,大規模林家の中には認証取得を機に,新たなネットワークを形成し,更に積極的な木材利用を行おうとするものも見受けられた.調査時点では明らかにならなかったが,実際近年,FSCを取得した高知県梼原町の森林組合では,新たな需要と流通ルートの拡大という形で大きな経済効果を手にしたとの報告(大田,2005)や,同じくFSCを取得した三重県の速水林業では地域の製材業者・工務店を含めたグループ立ち上げにより,流通を短絡化させた家作りを行うといった報告(速水,2004)がなされており,本研究はそれを裏付けるものである.少なくとも以上の点から,認証取得が持続的な森林経営の確立に寄与していると考えられる.『森林認証に関する意識・意向』との比較では,審査費用及び監査費用については実際の費用が,概ね未取得者が妥当だとする費用と一致しているため,この点は制度普及の障害には成り得ないと推測される.しかし,未取得者が認証取得に期待する効果と,取得組織が実際に達成されたとする効果にはずれが生じていることが明らかになった.一方,今回のアンケート調査の結果から,それぞれの組織の立場により認証取得の目的や認証取得後に得られたと感じている事項は様々であるが,「販売先の拡大」と「自組織のイメージアップ」については,多くの組織が取得後に実感していることが明らかになった.今後,認証取得にこのような効果を期待する組織には制度が普及していくと考えられる.近年の森林認証制度に関する議論として,森林認証取得を通した地域森林管理体制の再構築(白石,2006)が挙げられるが,筆者は森林認証の主体的な取得・普及の為には,この場合においても認証取得者の立場から取得のメリットやインセンティブを考慮する事は必要であると考える.調査時点以降,FSC,SGEC共に認証取得組織は増加している.今後もこれらの組織の動向に注目したい.'Forest Certification' system has been attracting attention as an activity that contributes to realization of sustainable forest management. In Japan, certificated forests also have been increasing after 2000. The aims of this paper are to analyze incentives of the organizations which their forests were already certificated, procedure to get the certification and the gap between the effect expected from uncertificated organizations and actual effect confirmed by certificated ones. To get premium from rising timber price has been not realized by the certification, but many certificated organizations recognized to increase new sales channels and to raise their image. But the organizations who have not gotten forest certification still demand the price premium. There are disagreements between expectation and actual effect of forest certification.
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