森林オーナー制度と資源管理主体 : 「芸北高原こもれびの森林オーナー制度」を事例に
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概要
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旧芸北町では,今後も少子高齢化がますます進行していくであろうと考えられる.そのため今後地域のみで森林を持続的に管理するのは困難になっており,新aたな森林資源管理の主体の形成が期待されている.また現在では,「木材の生産からレクレーションの場の提供まで,森には多様な機能があり,さまざまな人々が森とかかわるようになってきた」(井上,2004).旧芸北町においても,こもれびのオーナー制度をはじめとして,雲月山の野焼きやきのこの里におけるきのこ栽培,土嶽湿原の復元プロジェクトなど,森林をはじめとする様々な自然資源に都市の住民を含む様々な人々や集団が関わっている.旧芸北町から都市の住民がいなくなることはなく,旧芸北町の森林を地域のみで管理することも困難であると考えられる.井上(2004)は,「森は地域住民だけのものであるという考えは,グローバル化および森林利用の多様化が進んだ現在では,偏狭な地元主義(ローカリズム)と見なされやすい」とし,「開かれた地元主義」と「かかわり主義」による「協治」を提唱している.また,健全な里山の森林の発揮する多面的機能は,森林所有者以外の多くの関係者にも影響を与えており,地域外のとりわけ河川で結ばれている下流の都市の住民にとっても影響を与えている.旧芸北町の雲月山を源流域とする滝山川は途中他の河川と合流し,太田川として広島市を流れ瀬戸内海に注ぐ.そのため,里山の森林は「コモンズ」としての役割を果たしており,都市の住民はその恩恵を享受している.多辺田(2004)は,「都市の成立条件は農山漁村のストック形成力(自給力・更新力) にある」とし, また北尾(2005)は,「現代社会におけるコモンズは,まちを含む広い地域社会によって支えられなければ存続しえ」ず,「また,それら地域共通の『財産』(希望)となりうるものでなければならない」と述べ,都市の生活者の立場で何ができるかを素描している.こもれびのオーナー制度は,都市の住民が山村の現状を知るための都市と山村を結ぶ契機となり得るものであった.しかし,オーナーと地域住民の制度に対する評価の結果や制度を新しい森林管理のモデルとして広めるべきかという両者の意向の結果が示すように,こもれびのオーナー制度が新しい森林管理の方法としての「レジティマシー」^4(宮内,2006)を獲得しているとは言い難い.これまで本制度は旧芸北町の民有林に広まっておらず,今後合併後の町有林を誰が担っていくのかといった問題は依然として残されたままである.そのため現時点では,こもれびのオーナー制度は,里山の新たな森林資源管理の主体形成の契機にはなっていない.オーナーと地域住民の「両者にとって『木を植える』『森に入って作業すること』の主観的意味はまったく異な」り(田村,2001),K氏はその価値観の違いについて述べた.そのため,こもれびのオーナー制度が里山の新たな森林管理の主体形成の契機としてのレジティマシーを獲得するためには,オーナーの地域の交流は必要不可欠な要素であり,交流によって両者が価値観の違いを認識することが必要である.また,こもれびのオーナー制度は町有林を使用しているため,町民の同意なしでは制度を持続的に運営していくことすら不可能であろう.同時に,少子高齢化が今後更に進行するであろう地域で,地域がオーナーを受け入れなければ,森林を持続的に管理していくことも困難であろうと考えられる.そのため,オーナーはもっと地域に目を向け,地域との交流を図っていくことに努めなければならない.地域住民は地域の森林に関心を持ち,オーナーの存在と活動を認め,地域に受け入れることが必要であろう.そのための契機として,協議会が自立しオーナーが自発的な活動を行なうようになったことは大きい.今後は地域との交流にも問題意識を持って,それを解決するための行動をしていく事が重要である.オーナーの地域が交流するための一つの方法としてK氏は,山の文化,山で昔何をしていたかという昔話を聞く会を提案していた.旧芸北町では,ヒノキを使う文化が地元にはあり,「ヒノキは捨てる所がない」がないと言われ,皮の使い方などK氏でも知らない技術があった.しかし現在では,その文化も受け皿がなく廃れようとしている.このような昔話を聞きながら,お互いに酒を酌み交わしも心の交流を行なう事をK氏は提案した.このような交流は,地域の精神的な活性化につながり,制度の目的である「森林の文化の再評価と伝承」を達成するものと考えられる.このようなオーナーと地域の精神的な交流が行なわれ,オーナーと地域住民の森林に対する価値観の違いが両者の間で理解し合われ,旧芸北町の森林がオーナーと地域住民にとっての「地域共通の『財産』(希望)」となった時初めて,こもれびのオーナー制度は里山の新たな森林資源の主体形成の契機となり得るものであると考えられる.しかし,本研究では「森林オーナー制度」の一事例の実態を明らかにしたに留まる.今後の研究課題として,他の地域で実施されている「森林オーナー制度」の実態を明らかにし,本制度との比較研究が必要である.また,森林資源以外の里山資源の「オーナー制度」との比較も必要であると考えられる.こもれびのオーナー制度においても今後,どれ程のオーナーが契約を更新するか,オーナーの世代交代が行われるか,オーナーと地域住民との間で交流が行なわれるか等を更に継続して調査を行なう必要がある.Overall exchanges between cities and mountain villages have been blossoming in recent years in Japan. In this movement, a system called "Option Transaction on Forests" (OTF) has been established in each place. The "OTF" system is to open right of utilization mainly for visitors from city. Tamura (2001) appreciates this movement that brings about hopes for some types of new forest resource management. She is, however, apprehensive about another resistant of local mountain villagers, as city visitors deprive mountain villagers' benefits from forests. In former Geihoku town in Hiroshima Prefecture, OTF has also been introduced by town [vinhquang1]. This system was established in the area to manage country-side forests by exchanging forest management activities between city visitors and the local mountain villagers. Under the system, part of forests can be rented by "city visitors" (tenants). The purpose of this paper is (1) to clarify the actual conditions of "Geihoku-highland Komorebinomori OTF" and perception of tenants and local residents about the system; and (2) to consider about potential of OTF as a new forest resource management system. The result shows that local residents tend to evaluate value of the system lower than that of tenants. The main causes of this are (i) no communication between tenants and local residents have taken place till now; and (ii) the "Geihoku-highland Komorebinomori OTF" does not have "legitimacy" (Miyauchi, 2006) for some types of new forest resource management between tenants and local residents. Therefore, "Geihoku-highland Komorebinomori OTF" so far only brings about opportunity for city visitors to know the present conditions of the mountain villages, but not yet for some types of new forest resource management. The paper suggests that more communication between tenants and local residents is necessary to make "Option Transaction on Forests" successful for some types of new forest resource management.
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