北海道北部猿払川中流域における遺存種ムセンスゲが生育する湿原の植生と微地形
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
1.北米・北欧を中心に分布する北米要素の多年生草本ムセンスゲCarex livida(Wahlenb.)Willd.は,極東地域ではカムチャッカ,千島列島,サハリン北部,朝鮮北部及び北海道に点在し,北海道内でも北部の猿払川流域の低地湿原と大雪山高根ヶ原の山地湿原に隔離分布する.周北極地域を中心に分布するムセンスゲが生育する湿原の植生と立地環境を明らかにすることは,日本列島北域における北方系植物の植物地理学的研究の重要な手がかりとなることから,本研究は,猿払川流域のムセンスゲ生育地の植物社会学的位置を明らかにすること,湿原の立地環境からムセンスゲ生育地に共通する条件を考察することを目的とした.2.猿払川中流域の3ヶ所の湿原の87コドラートでコケ植物と維管束植物について植生調査を行い,群落を区分した結果を北海道内及び本州の湿原の植生と比較した.また,ムセンスゲが生育する2ヶ所の湿原で微地形測量を行った.3.植生調査の結果,4群落を区分し,2群落ではその中で2つの下位単位を区分した.シュレンケ群落は高層湿原シュレンケ植生のホロムイソウクラスのホロムイソウ-ミカヅキグサ群集(北方型)に相当し,草本ブルテの群落は中間湿原植生のヌマガヤオーダーのホロムイスゲ-ヌマガヤ群集に相当すると考えられた.4.ムセンスゲはシュレンケとその周辺の群落に生育し,シュレンケ内において常在度が高かった.5.微地形測量の結果,2ヶ所の湿原においてケルミ-シュレンケ複合体が形成されていることを確認した.ムセンスゲの分布中心である北欧・北米では,ムセンスゲはpatterned fenと呼ばれる微地形を有する湿原に生育し,本調査地も小規模なpatterned fen(patterned mire)と考えられることから,ムセンスゲはこれらのような帯状の起伏が連続する微地形上の,シュレンケとその周辺部が生育適地であると考えられる.6.海外のムセンスゲ生育地の植生・立地環境と比較したところ,本調査地におけるムセンスゲの生育環境はカナダ大西洋岸地域と類似していた.生育地が限られる希少種が生育しているという点だけでなく,高緯度地域の湿原とも類似する立地環境を有する猿払川湿原は,貴重な湿原環境を残す我が国の重要な湿原の1つと言える.
- 2011-06-30
著者
-
冨士田 裕子
北海道大学北方生物圏フィールド科学センター
-
冨士田 裕子
北海道大学北方生物圏フィールド科学センター植物園
-
冨士田 裕子
北海道大学フィールド科学センター植物園
-
冨士田 裕子
北海道大学農学部附属植物園
-
冨士田 裕子
東北大学理学部生物学教室
-
冨士田 裕子
北海道大学大学院農学研究科植物体系学分野:北海道大学北方生物圏フィールド科学センター植物園
-
井上 京
北海道大学大学院農学研究院
-
井上 京
北大院農
-
井上 京
北海道大学大学院環境資源学部門地域環境学分野土地改良学研究室
-
加藤 ゆき恵
北大植物園 北海道大学大学院農学院植物生態・体系学研究室
-
加藤 ゆき恵
北海道大学大学院農学院
-
加藤 ゆき恵
北海道大学大学院農学院:(現)北海道大学北方生物圏フィールド科学センター植物園
-
井上 京
北海道大学
関連論文
- 釧路湿原久著呂川後背湿地における土砂堆積履歴と堆積厚の推定
- 釧路湿原内での北海道開発局による広域湛水実験の問題点と跡地の植生
- サロベツ湿原におけるチマキザサおよびミズゴケのフェノロジー観察結果
- 北海道静内地方における北海道和種馬林間放牧地の種組成
- 42 釧路湿原北西部における植生分布と土壌環境の関係解明(北海道支部講演会,2006年度各支部会)
- 22-39 釧路湿原北東部における土砂流入時期の推定とハンノキの拡大要因の解明(22. 環境保全, 2006年度秋田大会講演要旨)
- 22-10 釧路湿原における流入土砂による有効態リン酸の供給量と消失量の推定(22.環境保全,日本土壌肥料学会 2005年度大会講演要旨集)
- 22-22 釧路湿原における植生と土壌環境変動との関係解明(2) : ハンノキ林の生育と堆積土壌の関係(22.環境保全)
- 23-12 釧路湿原における植生と土壌環境変動との関係解明(23.地域環境)
- 37 土壌凍結地帯における伏流式人工湿地システム(ヨシ濾床浄化システム)による搾乳関連排水の浄化 : 6.現地実証試験における水質浄化能の評価とシステムの改良点(北海道支部講演会,2008年度各支部会)
- 北海道大学北方生物圏フィールド科学センター植物園で開催した「絶滅危惧種展」 (特集 『絶滅危惧種展』〜ふるさとの植物を守ろう〜を振り返って)
- 33 トレンチ灌漑を用いた湿原植生の復元(北海道支部講演会,2008年度各支部会)
- ALOS/PALSARを用いた泥炭地湿原の表層土壌特性の推定
- 北海道涛沸湖産の果実をもつヤハズカワツルモ(ヒルムシロ科)
- 湿原における植生-立地環境の関係解析のための水位環境指標値
- (13) ミズバショウさび病菌の異種寄生性について (東北部会講演要旨)
- 小清水原生花園における海岸草原植生復元のとりくみ(草地学と保全2.草原生物多様性の保全の現場)
- 北海道南西部の草地畜産流域における河川水文と汚濁負荷流出特性
- 森林流域と農業流域における融雪流出時の汚濁負荷流出特性
- 少雪寒冷な酪農流域における融雪融凍期の水質水文環境
- 北海道東部の畑作地帯における降雨流出時の河川水質特性
- 北海道東部の畑作地帯における降雨流出時の河川水質特性
- 北海道南西部の農林地流域における降雨時の河川水質環境
- 釧路湿原久著呂川後背湿地における土砂堆積履歴と堆積厚の推定
- 北海道小清水原生花園における火入れ後のハマナス(Rosa rugosa Thunb.)の生長と開花
- 酪農流域における河川水質の長期的変動--「家畜排泄物管理適正化法」の効果
- 農業用水路の管路化による水質・水文環境への影響
- 石狩川河跡湖周辺地域の土地利用と湖水環境
- 石狩川河跡湖の利用と周辺農地が水質に及ぼす影響
- 農業流域における融雪期の水質環境と土地利用 : 主成分分析による河川水質形成機構の解析
- 治水機能からみた石狩川河跡湖の地域資源的評価
- 23-32 北オホーツクモケウニ沼湿原における植生と泥炭土壌中の水溶性イオンの関係(23.地域環境)
- 23-15 インドネシア熱帯泥炭地における温室効果ガス発生量と泥炭沈下量との関係(23.地球環境,2009度京都大会)
- 日本植物園協会第40回大会・研究発表論文 北海道大学植物園における平成16年台風18号の被害状況について
- 丘陵地小谷底のハンノキ林とこれに隣接するハルニレ林の土壌環境
- 丘陵地小谷底のハンノキ林とこれに隣接するハルニレ林の地下水位
- 国内情報 酪農パーラー排水処理のための伏流式ヨシ濾床人工湿地システム
- 44 ヨシ濾床浄化システムによる搾乳牛舎排水浄化の現地実証 : 別海町と遠別町における処理効率の評価と施設の改善(北海道支部講演会,2007年度各支部会)
- 22-42 土壌凍結地帯における伏流式人工湿地システム(ヨシ濾床浄化システム)による搾乳関連排水の浄化 : 5.3年間の現地実証試験の結果について(22.環境保全,2008年度愛知大会)
- 座談会「農業農村工学は, 地球環境問題の解決に向けてどう貢献すべきか?」
- 多時期のランドサットTM画像を用いた湿原植生分類
- 札幌市篠路湿地の植生および水文環境の現状と保全について
- 22-43 道北における酪農排水浄化のための伏流式人工湿地(ヨシ濾床)システムの現地実証 : 非火山性資材の活用と稲作による養分リサイクルの可能性(22.環境保全,2008年度愛知大会)
- 泥炭地盤沈下が炭素貯蔵量に及ぼす影響
- 北大植物園今昔(3)2つのロックガーデン
- 北大植物園古今(1)台風と植物園、今そしてこれから何をなすべきか
- 有珠山2000年噴火によって形成された火口湖周辺の初期植生
- 釧路湿原内のハンノキ・ヤチダモの生長に及ぼす河川改修工事の影響
- 上サロベツ湿原時系列ササ分布図の作成とササの面積変化
- 元国指定天然記念物静狩湿原の変遷過程と現存植生
- 「拓北の森」の植生と土地利用変遷との関係
- 酪農パーラー排水処理のためのヨシ濾床伏流式人工湿地の浄化性能
- 酪農・畜産排水処理のための人工湿地システム
- ヨシ濾床浄化システムにおける窒素の動態
- 石狩川河跡湖の水質保全機能に関する評価
- 農業流域河川における融雪期の窒素流出挙動
- 北海道における複合型土地利用の農業流域河川の水質特性
- 降雨時における浮流土砂流送挙動 : 農林地流域河川の浮流土砂流送に関する研究(I)
- 北海道の酪農流域河川における窒素流出と水質保全
- 石狩川流域の泥炭地水田地域における圃場区画形状の変遷
- 水田水利用による水質環境への影響 : 北海道における調査事例
- 地理空間技術を用いた湿原環境の平面的構造の推定
- 22-18 高濃度排水処理のための伏流式ヨシ濾床人工湿地の設計と効果 : 北海道における酪農排水・デンプン廃液・養豚尿液処理の現地実証(22.環境保全,2010年度北海道大会)
- 北海道東部の大規模酪農地域における河川の水質環境
- 北海道における泥炭地湿原の保全対策
- 北海道北部猿払川中流城における遺存種ムセンスゲが生育する湿原の植生と微地形
- 小清水原生花園の自然再生における順応的管理
- 北海道石狩川河口のハンノキ林床のミズバショウ(Lysichiton camtschatcense(L. )Schott)個体群における展葉フェノロジーと光環境の関係
- 「INTECOL's IV International wetlands Conference」に参加して
- 北海道の湿原生態系とその保全・再生 (自然再生の理念と実践--湿地生態系を事例として)
- サロベツ湿原におけるチマキザサおよびミズゴケのフェノロジー観察結果
- 北海道における園芸植物タイマツバナ Monarda didyma(シソ科)の帰化
- 北海道北部猿払川中流域における遺存種ムセンスゲが生育する湿原の植生と微地形
- 小清水原生花園の自然再生における順応的管理
- 篠津地域にみる泥炭地の利用と保全
- 泥炭地の特性と湿原植生 (講座 泥炭地の特徴 土壌物理性との関連において)
- 会員は学会名称をどう考えているか : アンケート結果報告
- 資料 : 湿原生植物の葉面積、葉重、葉長の関係
- 知床半島羅臼湖周辺におけるムセンスゲ生育地の植生と立地環境
- 北限産地のホザキノミミカキグサ
- 北海道総合開発計画と土地改良事業の展開と評価 : 国営土地改良事業を事例として (論文特集号)
- 海岸のお花畑「原生花園」--自然と人間がバランスをとりあって管理していた草原 (特集 北のロマン--原生花園)
- Vegetation and microtopography of Carex livida-growing mires near Lake Rausu, Shiretoko Peninsula, Eastern Hokkaido, Japan
- VIII-2 伏流式人工湿地システムによる高濃度有機性排水の再生と循環(VIII 家畜排せつ物の利活用と水質問題から考える有機物管理の次世代パラダイム,シンポジウム,2011年度つくば大会)
- 釧路湿原大島川周辺におけるエゾシカ生息痕跡の分布特性と時系列変化および植生への影響
- 北海道の国営農業農村整備事業に対する受益農家の評価 (論文特集号)
- 北海道大学植物園植物標本庫(SAPT)菅原繁藏コレクションのタイプ標本
- 北海道総合開発計画と土地改良事業の展開と評価 : 国営土地改良事業を事例として
- 家畜排せつ物の利活用と水質問題から考える有機物管理の次世代パラダイム(2011年つくば大会シンポジウムの概要)
- 釧路湿原大島川周辺におけるエゾシカ生息痕跡の分布特性と時系列変化および植生への影響
- 北海道の国営農業農村整備事業に対する受益農家の評価
- 23-25 アカシアプランテーションにおける熱帯泥炭地の沈下と酸化分解(23.地球環境,2012年度鳥取大会)
- 8-1-36 多段式ハイブリッド伏流式人工湿地システムによる養豚廃液の処理効果(8-1 環境保全,2013年度名古屋大会)
- 家畜排せつ物の利活用と水質問題から考える有機物管理の次世代パラダイム