鱗翅類の交尾形式
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概要
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この論文では鱗翅類の交尾形式を総括・整理した.鱗翅類が垂直面あるいは斜面で交尾する時の体位は,常に雌が上に位置し,雄は下向きに静止する.この現象を「雌上位」と呼び,同一種でも希に逆位つまり「雄上位」がある.「雄上位」は滅多に見られず,蛾類では「雌上位」が基本である.また尾端でつながり雌雄の頭が反対方向を向く交尾中のペアの翅が左右に傾斜し,典型的な場合胴部が屋根の下に隠れているので「屋根型交尾」と呼ぶことにした.もちろん翅の面積,長さが変化すれば胴部が露出し屋根のようでなくなるが,尾端でつながり雌雄が反対方向を向く交尾形式は広義の「屋根型交尾」とする.この場合,雌の翅が雄の翅を覆う「雌上翅」と,その逆の「雄上翅」があり,基本形は「雌上翅」である.しかし,翅の重ね方については雌も妥協的で「雄上翅」が時々見られる.屋根型交尾では,以上の2点を確認することが望ましい.また写真は必ず上下関係がはっきり分かるように撮影するべきである.わざわざ写真を横向きにして発表したと思われる例があるが困ったことである.次に屋根型交尾から由来する二大系列がある.一つは交尾中の雌雄の頭部が同じ方向を向く場合である.垂直面での交尾では両性の頭部はどちらも上を向く.これは食樹上の繭または茂みに羽化直後の雌が止まって雄を迎える場合で,雄は雌の側面から翅を背中で畳んで接近しそのまま結合する.V字状になるので「V字状交尾」と呼ぶ.結合後,雄が雌の腹面に回り翅を開いて静止すると「対面交尾」となる.V字状交尾から対面交尾に移行するためには雌雄の間に葉や枝など,夾雑物がないことが条件である.もしあればV字状交尾のまま交尾を終わる.この両型は,ヤママユガ科のほとんど全部とドクガ科,カレハガ科の一部で観察されている.またヒトリガ科の一部でも見られるかも知れない.第二の変化は,屋根型交尾の屋根の傾斜が翅の面積増大と胴が細くなった結果,屋根の勾配が次第に緩やかになり,ほとんど水平になった蛾類で見られ,「水平翅型交尾」と呼ぶ.シャクガ科,ヤガ科と蝶類で見られる.この型はさらに進むと背中で翅の表面と表面を合わせて閉じる「蝶型交尾」になる.シャクガ科では上の両型が一つの種または属で見られる場合がある.しかし種によってどちらか一型に落ち着くことが多い.ヤガ科のアツバ類には水平翅型交尾は見られるが,この科では「蝶型交尾」はまったく見られない.蝶でしばしば問題になる交尾飛翔は,雌雄が共同しないと成立しない.夜行性の蛾の場合,飛行が観察された例はない.はっきりと一方向へある距離飛んだことが分かっているのは蝶の一部と蛾ではオニベニシタバである.この蛾は昼間樹幹から樹幹に飛んだという.昼行性のカノコガやスカシバガ科は刺激されると雌雄が混乱し,強い側か強引に引っ張ることが観察されている.オオスカシバは右へ飛んだり左へ飛んだり,右往左往し一方向へスムーズに飛翔できなかった.蝶の交尾飛翔も無理に刺激し飛ばした報告が含まれているが,これはまったく無意味な観察である.もし蝶との間に距離をおいてじっくり観察すれば蝶は交尾中決して飛ばない.また雌雄が驚いて落下した場合,どちらかが少し翅を開閉したとしても交尾飛翔したとは言えない.蝶の交尾飛翔も本当に飛んだと言える例がどれほどあるか,再吟味が必要であろう.
- 2003-01-10
著者
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長谷川 英男
大分大学医学部感染分子病態制御講座
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長谷川 英男
大分大・医・生物
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長谷川 英男
琉球大・医・寄生虫
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長谷川 英男
Department Of Infectious Diseases Oita Medical University
-
長谷川 英男
新潟大学 医動物
-
長谷川 英男
大分医科大学生物学教室
-
長谷川 英男
沖縄県公害衛生研究所
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長谷川 英男
大分大学医学部感染分子病態制御講座(生物学)
-
長谷川 英男
琉球大学医学部寄生虫学教室・同地域医療研究センター
-
宮田 彬
大分医科大学
-
宮田 彬
Department of Infectious Diseases, Oita Medical University
-
YONG Hoi
Institut Sains Biologi, Universiti
-
池田 八果穂
Department of Infectious Diseases, Oita Medical University
-
揚 海星
Institut Sains Biologi Universiti
-
宮田 彬
Department Of Infectious Diseases Oita Medical University
-
池田 八果穂
Department Of Infectious Diseases Oita Medical University
-
長谷川 英男
大分大学医学部
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