奄美大島産両生類・爬虫類の寄生蠕虫

概要

論文の詳細を見る
国立科学博物館の「奄美諸島・トカラ列島の自然史科学的総合研究」の一環として, 平成元年10月に行った奄美大島産両生・爬虫類の寄生蠕虫の調査結果を, それまでに行った予備的調査の結果と合せて報告した。両生類7種, 爬虫類9種計91個体を調査し, 約30種の寄生蠕虫を得, 線虫1新種を記載した。奄美大島の両生・爬虫類の蠕虫相は基本的に沖縄島のそれに近似していたが, 本調査に関する限りより貧弱な印象を受けた。シリケンイモリ, ハナサキガエル, ヒメハブの寄生蠕虫は全て沖縄本島の当該宿主に見られるもので, しかもハナサキガエルは沖縄産より大型であるにもかかわらず寄生虫種は少なかった。また大型種オットンガエルでは消化管寄生線虫は未熟な1種が見られたにすぎない。さらに周辺地域の両生類に普通の寄生線虫であるCosmocerca japonicaがいずれの両生類にも検出されなかった。一方, 周辺地域でこれまで検出されていない蠕虫種も見られた。Icosiella sasaiおよび成熟個体は得られなかったがFalcaustra sp.は奄美大島固有種オットンガエルにのみ検出された。新種Meteterakis amamiensisはヘリグロヒメトカゲ, オオシマトカゲ, イシカワガエルから得られた。本種は交接刺基部が大きく開いていることでアジアのヒキガエル類等に広く寄生するM. japonicaや福建省のトカゲ寄生のM. paucipapillosaに類似するが, 食道長, 雄尾部の乳頭配列や雌陰門部の形態, 交接刺の形態が異なること等で区別される。沖縄島のイシカワガエルには別種M. ishikawanaeが寄生しているが, これとは交接刺の形態が異なり容易に区別される。沖縄島と奄美大島でイシカワガエルに寄生する同一属線虫の種が異なることはこれら線虫の由来を考える上で興味深い。奄美大島の両生・爬虫類の寄生蠕虫相が貧弱な理由は不明であるか, この島が沖縄島より小さく, それが制限要因となったこと, 琉球列島内では東洋区の北端にあたり, 寒冷な気候の影響をより受け易かったこと, 更に近年の森林開発が環境を単純化し, 発育や伝播に複雑な環境を要する蠕虫種を圧迫したこと等が考えられる。一方まだ多くの寄生蠕虫が局地的に存在している可能性もあり, 更に調査が必要である。
国立科学博物館の論文
1990-12-01

奄美大島産両生類・爬虫類の寄生蠕虫

スポンサーリンク

概要

著者

関連論文

スポンサーリンク