東京都奥多摩地域におけるニホンジカ(Cervus nippon)の生息密度増加に伴う植物群落の種組成変化
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
1.1990年代以降ニホンジカの生息密度が急激に増加した東京都奥多摩地域において,ニホンジカが増加する前の1980-1985年に植生調査が行われた77スタンドにおいて,1999-2OO4年に追跡調査を行い,植物群落の階層構造,種組成,植物体サイズ型の変化を比較した.2.調査地域の冷温帯上部から亜高山帯に成立するシラビソ-オオシラビソ群集,コメツガ-ウラジロモミ群落,ブナ-ツクバネウツギ群集,シオジ-ミヤマクマワラビ群集,ミズナラ-クリ群集,ススキ-ヤマトラノオ群集,ミヤコザサ-シモツケ群集の計7タイプの植物群落を調査対象とした.3.1980-1985年と1999-2004年における植物群落の各階層の高さおよび植被率を比較した結果,全ての植物群落で草本層の高さまたは植被率が減少していた.さらに,森林群落では低木層の植被率が減少する傾向がみられた.4.1980-1985年と1999-2004年における総出現種数は471種から397種に減少し,奥多摩地域全体での植物種の多様性が低下していることが示唆された.5.1980-1985年から1999-2004年の間に,調査を行った全ての植物群落で種組成の変化が認められた.種組成の入れ替わりはミヤコザサ-シモツケ群集,シオジ-ミヤマクマワラビ群集,ミズナラ-クリ群集,ススキ-ヤマトラノオ群集の順に高く,シラビソ-オオシラビソ群集,コメツガ-ウラジロモミ群落,ブナ-ツクバネウツギ群集では低かった.6.各植物群落の構成種を植物体サイズによって類型化し,その増減傾向を比較した結果,中型・大型の草本種に減少種が多く,小型の草本種と大型の高木種には増減のない種が多い傾向が全ての植物群落に共通してみられた.7.スタンドあたりの出現種数はシラビソ-オオシラビソ群集,シオジ-ミヤマクマワラビ群集,ミズナラ-クリ群集,ススキ-ヤマトラノオ群集,ミヤコザサ-シモツケ群集の計5群落で減少していた.これらの群落では特に中型草本および大型草本のスタンドあたりの出現種数の減少が著しかった.また,森林群落のシラビソ-オオシラビソ群集,シオジ-ミヤマクマワラビ群集,ミズナラ-クリ群集ではスタンドあたりの低木の出現種数も減少していた.8.コメツガ-ウラジロモミ群落,ブナ-ツクバネウツギ群集ではスタンドあたりの出現種数に変化がみられなかった.これらの植物群落ではスズタケの優占度の減少量と調査スタンドに新たに加入した種数の間に相関がみられることから,摂食によって種数が減少する一方,スズタケの優占度の低下に伴って新たな種が加入することにより,種数の変化がなかったものと考えられた.
- 2007-12-25
著者
-
星野 義延
東京農工大学大学院共生科学技術研究院
-
大橋 春香
東京農工大学大学院連合農学研究科
-
大野 啓一
千葉県立中央博物館
-
大野 啓一
千葉県立中央博物館環境科学研究科
-
星野 義延
東京農工大学
-
大橋 春香
東京農工大学
関連論文
- 丘陵地の谷底における水田雑草群落の種組成の空間パターンに水流のつながりが与える影響
- 東京都奥多摩地域におけるニホンジカ(Cervus nippon)の生息密度増加に伴う植物群落の種組成変化
- 関東地方におけるコナラ二次林の20年以上経過後の種多様性及び種組成の変化
- 植生調査資料を用いた地域フロラ構成種の希少性の類型化 : 関東の丘陵地の里山景観における事例
- 家政大校外施設の自然教育上の価値(I) : 校外施設周辺の植生の種組成
- 東京家政大学板橋キャンパスにおける武蔵野の森の再現を目指した検討と試行
- 航空マルチスペクトルイメージングによるコナラ収量推定モデルの安定性の検討
- 多摩川中流域の河川敷植生構成種の他感作用
- 北関東におけるフモトミズナラの葉・堅果・殻斗の形態について
- 65 多摩川永田地区における河川敷植生構成種の他感作用(1-(3)雑草害、競争、他感作用)(1. 雑草)