海洋生態系に対する地球温暖化の影響
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概要
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人間活動に伴う大気中の二酸化炭素濃度の上昇は,海洋に対して表層水温の上昇,海氷の減少,さらに酸性化といった様々な変化をもたらしている。そのような海洋環境の変化に伴って,海洋生態系も変化していることが近年の研究から明らかになってきた。北太平洋では水温上昇などを原因とした成層の強化に伴って表層への栄養塩供給量が減少することで,低次栄養段階の生物生産量が低下していることが広い範囲で示唆されている。北大西洋では水温上昇は多くの動植物プランクトンの季節変異を早めていると考えられている。しかし一次生産の主体を成す珪藻にはほとんど影響しないために,地球温暖化の進行に伴って将来,珪藻と捕食者との間でミスマッチが生じ水産資源にも悪影響を与えることが懸念されている。南極海では海氷の減少に伴ってアイスアルジーが減少することで,捕食者であるナンキョクオキアミ(Euphausia superba)の資源量が減少していると考えられている。さらに二酸化炭素濃度の上昇を原因とした海洋の酸性化は円石藻,翼足類およびサンゴ等の石灰質を持つ生物だけでなく,カイアシ類や魚類の再生産にも悪影響を与えることが明らかになっている。一方で地球温暖化は低気圧の発達を促すことで風を強め,幾つかの沿岸湧昇域の湧昇を強化し,栄養塩の供給量を増加させることで生物生産を高める可能性も指摘されている。以上の様に,幾つかの水域では近年の研究の進展によって海洋生態系変動のプロセスが明らかになってきた。しかしプロセスはおろか変動の実態についても明らかになっていない水域も多く存在する。海洋生態系に対する地球温暖化の影響を理解していくためには,これらの水域でも観測を展開し研究を進めていく必要がある。
- 2008-11-05
著者
-
杉本 隆成
東海大海洋
-
岸 道郎
北大院水産
-
田所 和明
東北区水産研究所
-
杉本 隆成
東海大学海洋研究所
-
岸 道郎
北海道大学大学院水産科学研究院
-
岸 道郎
北海道大学
-
岸 道郎
北海道大学 水産学部
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