牛のブドウ球菌性乳房炎に関する細菌学的ならびに疫学的観察
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概要
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著者は帯広地区の酪農家で飼育されている搾乳牛のブドウ球菌性乳房炎の発生状況を知り,かつその実態を疫学的な観点から明らかにして牛乳房炎発生防止の手がかりをうるために,1969年から1970年の2ヶ年間にわたり乳房炎牛の乳汁の臨床,細菌学ならびに疫学的な検索を行った。検索の対象とした牛群はA・Bの2群である。A群は帯広地区のほぼ全域にわたって任意に選んだ130戸の酪農家の搾乳牛768頭(3,058分房)から摘発したCMT陽性異常乳分泌牛の210頭(294分房)であり,B群は同地区内で任意に選んだ酪農家10戸の全搾乳牛91頭(364分房)であった。本試験では,294例のCMT陽性異常乳から157株(A群)と,正常な乳汁がほとんどである364例の乳試料からブドウ球菌195株(B群)を分離し,A・B両群の菌の生物学的性状を調べ,またコアグラーゼ陽性菌についてはファージ型別を検討し,両群の成績を比較しながら伝播に関する疫学的意義について考察した。これらの成績を要約すると次のとおりである。(1)768頭の搾乳牛の乳汁について行ったCMT検査で,3,058分房中294分房(9.6%)の乳汁が細胞数とpHに異常がみられるいわゆる潜在性乳房炎とも呼ぶべきものであり,またそのうちの35分房(11.9%)が臨床型乳房炎であった。(2)294例のCMT陽性異常乳から157株(53.4%)のブドウ球菌が分離された。そのうちの107株(68.2%)がコアグラーゼ陽性,残りの50株(31.8%)がコアグラーゼ陰性であった。(3)健康乳房がほとんどである10戸の酪農家の全搾乳牛91頭の364分房の乳汁(25例のCMT陽性異常乳を含む)から195株(53.6%)のブドウ球菌を分離した。そのうちの89株(46%)がコアグラーゼ陽性,106株(54%)がコアグラーゼ陰性であった。(4)CMT陽性異常乳からのコアグラーゼ陽性菌の分離割合が,健康牛がほとんどであるB群乳汁のそれに比較して12%高く,コアグラーゼ陽性ブドウ球菌の乳房炎起因菌としての意義の重要性がうかがわれる。しかし,コアグラーゼ陰性ブドウ球菌も乳房炎起因菌としての役割を全く否定してしまうことはできない。(5)A・B両群のブドウ球菌の生物学的性状を比較検討したが,両群の間に明瞭な差異を認めることはできなかった。(6)帯広地区における搾乳牛の乳汁中から得たブドウ球菌は,ペニシリン以外の4種の抗生物質に対して高い感受性を示したが,ペニシリンに対しては耐性を示すものが多く,そのほとんどが薬剤の高濃度に至るまで耐性を示したことは注目される。(7)牛系菌型別用ファージ・セット(DAVIDSON編成)の100RTDファージ液を用いて型別を行い,A群コアグラーゼ陽性菌の84%,B群コアグラーゼ陽性菌の80%を型別することができた。(8)帯広地区のほぼ全域から摘発したCMT陽性異常乳から分離したコアグラーゼ陽性菌のファージ型には特徴的なものがなく,型別できた全株が25のファージ型に区別されたが,B群の型別できたものには明瞭な特徴がみられた。(9)対象とした10戸の酪農家のうち,コアグラーゼ陽性ブドウ球菌の濃厚な汚染をうけていると思われる3戸の酪農家の搾乳牛の乳汁から分離されたものが,それぞれ特定のファージ型を示した。このことから,同一牛舎内にはそれぞれ特定のファージ型を示す菌が独占して分布しているものといえる。(10)CMT陽性異常乳中に存在し,乳房炎の起因菌であることがうかがえるコアグラーゼ陽性菌は,健康な乳房の乳汁中にも広く分布している。しかし,これらの菌を保有している乳房がすべて異常を示し,CMT試験等の検査で乳房炎として摘発されるものとはかぎらないもののようである。(11)牛舎内には特定の菌種の分布が主体をなしていることから,牛乳房炎の予防対策に乳房炎起因菌の伝播防止が第一義と考える。
- 帯広畜産大学の論文
- 1974-12-25
著者
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