北海道有珠火山地域における第四紀火山砕屑物の風化過程

概要

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岩石および堆積物の風化過程に関する研究は,今日では地質学,鉱物学,土壌学および地球化学の分野における共通の研究課題となっている。風化過程の本質を究明するためには,気候条件を異にする各地域において,岩石および堆積物の地質年代,岩質,構成鉱物などの性状を明らかにし,風化の初期段階からの詳細な化学的,鉱物学的研究が必要である。最近,風化過程の研究においては,風化作用により生成された粘土の鉱物学的研究が重要視され,粘土鉱物組成およびその変化の追究が,風化過程の指標としてきわめて有効であることが確認されてきた。この論文は,西南北海道の有珠火山地域における第四紀火山砕屑物の風化過程について,主に化学的風化作用と粘土鉱物の生成・変化の関係を中心に究明したものである。さらに北海道に広く分布する第四紀火山砕屑物の風化過程についても,既往の著者ならびに他の研究者の業績を比較参照しつつ,珪長質火山ガラスを主体とする軽石質火山灰の粘土鉱物化について論及している。まず,有珠火山地域の火山砕屑物につき,火山灰編年学を基礎にして詳細な地質調査をおこない,砕屑物の年代,岩質,噴出機構および堆積様式を明らかにし,分析試料の取り扱い方に火山学的な考慮をはらっている。上部洪積世から現在にいたる風化火山砕屑物の代表的なもの18試料につき,一般化学性が明らかにされ,2μ以下の粘土部分につきX線回析,示差熱分析,赤外線吸収スペクトル,化学分析および電子顕微鏡観察を併用して,構成粘土鉱物の種類と性質が決定されている。これらの資料にもとづき,有珠火山地域の火山砕屑物の風化過程の様式が詳論されている。以上の結果と,これまでの研究資料をもとに,北海道の第四紀火山砕屑物の風化過程に関する一般的様式を求めた。以上の研究結果は,次のように要約することができる。(1)有珠火山地域における冲積世の苦鉄質火山砕屑物は,堆積環境の差異により2,3の特異な風化過程を示す。すなわち,苦鉄質砕屑物が風化の初期において,より新期の火山噴出物に被覆されたり,火口原あるいは火口湖のような閉鎖された堆積環境にあっては,脱珪酸,脱塩基作用が緩慢なため,苦鉄質火山ガラス,カンラン石などは弱アルカリ反応(pH=7.5〜8.0)の下で分解が進行する。この過程で,含水シリカ・アルミナ・鉄のゲル状物質は,アルカリ,塩基と結合し,主として鉄に富むモンモリロナイト鉱物を生成する。また火口原あるいは火口湖においては,上記粘土鉱物のほかイライト,およびモンモリロナイトとリョクデイ石の混合層鉱物をも生成する。このような場合,生成粘土はSiO_2/Al_2O_3(モル比)が4以上で高く,SiO_2,Fe_2O_3,CaOに富み,かつアルカリにやや富むという特徴をしめす。しかし,苦鉄質火山砕屑物であっても,永く地表に露出し,脱珪酸,脱塩基作用が著しい場合は,Al_2O_3に富む非晶質なアロフエンを主成分とし,低結晶度のカオリン鉱物に変化してゆくものと推定される。一方,同地域の珪長質な火山砕屑物の風化過程についてみると,従来いわれているようなアロフェンからハロイサイトを主成分とする変化は認められず,堆積環境,とくに水分環境の変化や,上部堆積物からの化学成分の再添加などにより,複雑な粘土鉱物組成をしめすことが明らかにされた。すなわち,流紋岩質ないし石英安山岩質の火山砕屑物においても,2:1型粘土鉱物であるモンモリロナイト,イライト,バーミキュライト,およびリョクデイ石などが比較的多く生成し,これらの鉱物と低結晶度のカオリン鉱物とが共生している例の多いことを確認した。(2)北海道に広く分布する珪長質軽石・火山灰を主体とした火山砕屑物は,透水性が良好なため,脱珪酸,脱塩基作用が進み,弱酸性(pH=6.5〜5.0)の反応下で,珪長質火山ガラスから含水シリカ・アルミナのゲル状物質を生成し,非晶質鉱物のアロフェンを経て,低結晶度のカオリン鉱物であるハロイサイト,またはハロイサイトとメタハロイサイトの不規則混合層鉱物に変化する。このような風化過程をたどる場合,生成粘土はSiO_2/Al_2O_3(モル比)が3〜2以下で低く,かつMgO,アルカリに極端に乏しい。道内諸地域で認められた上記の一般的過程は,本州および北米・ニュージーランド・チリなどの第四紀火山砕屑物の表層風化過程に近似する。以上のような珪長質火山ガラスからカオリン鉱物への結晶化系列の進化は,従来,主に風化年代(時間)に依存すると考えられてきた。しかし,時間のほかに母材の粒度組成・透水性,ならびに堆積環境の相異などもこの進化の要因として重要であることが,本研究によって明らかにされた。以上は第四紀火山砕屑物についての風化過程の研究であるが,最近の米国でおこなわれた常温常圧下での層状珪酸塩の合成実験などを参照して,表層風化過程に附随する粘土鉱物の生成,変化について考察した結果,母材の物理的性質(主に堆積物の透水性),化学組成,風化溶液の塩類濃度とpH,SiO_2量に対するAl_2O_3の量比,および酸化還元電位(Eh)などが粘土鉱物の生成条件として主要なものであることを強調した。将来の研究課題として,珪長質火山ガラスからの2:1型粘土鉱物および1:1型粘土鉱物の複雑な共生関係をより明らかにすることと,岩石物理性の相異する固結火山岩および種々の岩石の風化過程と,火山砕屑物の風化過程との比較検討が重要であることを指摘した。
1969-09-30

北海道有珠火山地域における第四紀火山砕屑物の風化過程

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