『ジァコモ・ジョイス』における反ユダヤ主義と反フェミニズム
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概要
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多くの批評家たちが論じてきたように、オットー・ヴァイニンガーの『性と性格』(1903)は、ジェイムズ・ジョイスに『ユリシーズ』を書く刺激を与えたようである。ヴァイニンガーの見解は、マリリン・ライツバウムにより、次のように要約される:「ヴァイニンガーによれば、あらゆる人間存在にあって、女性が負の勢力であるように、ユダヤ人もそうである」。本稿は、ヴァイニンガーの視点より、『ジアコモ・ジョイス』における反ユダヤ主義および反フェミニズムを論じたものである。ジョイスがトリエステでおそらく1912年から1914年の間に書いた『ジアコモ・ジョイス』は、ユダヤ的要素への言及がほとんど見られない『若い芸術家の肖像』と、ユダヤ人の名前やユダヤ的要素への言及が満載の『ユリシーズ』を結ぶ習作に位置づけられる。トリエステは、ジョイスの時代には、西欧と東欧の境界に位置していた。エドワード・サイードの「オリエント」の定義を適用すれば、ジョイスに馴染みのあるヨーロッパと、馴染みのない「オリエント」の間にトリエステはあったのである。『ジアコモ・ジョイス』は、官能的な空想を描いたスケッチブックで、ジアコモは「謎の女性」に対する自分の欲望をたどる。作品には、性的な、あるいは反フェミニズム的な含蓄が響きわたるが、「意図的な」反ユダヤ主義的・反フェミニズム的調子ではない。ジアコモあるいはジョイスにとって、その生徒は魅力的でエキゾチックな女性なのだが、たまたま彼女がユダヤ人だというにすぎないのである。この心象スケッチを描きながら、ジョイスはユダヤ的視点から書くことを学んでいたはずである。かくして、ジョイスは、2つの作品、『ジアコモ・ジョイス』と『ユリシーズ』の創作のためにヴァイニンガーから2つの概念、「女性的なユダヤ人男性」と「自己嫌悪に陥ったユダヤ人」を借り受けたのである。
- 2006-03-01
著者
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伊東 栄志郎
Faculty of Policy Studies, Iwate Prefectural University
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伊東 栄志郎
Liberal Arts Center Education and Research, Iwate Prefectural University
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