湿生植物RDB掲載種の水田農業依存性評価 : 博物館等の収蔵標本における採集地記載情報を用いた一事例から(<特集>水田生態系の危機)
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概要
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里地里山の生物多様性の危機は、新・日本の生物多様性国家戦略(2002)で第二の危機として認識されるようになっているが、その保全や再生の合理的な計画を立て、農業とRDB掲載種の関係性について深く理解する必要がある。今回は、水田で記録されたRDB掲載種がどの程度農業行為に依存しているかを評価するための一手法として、岡山県下で採集保存されている湿地生植物の標本に残された生息環境情報を用いて、水田とそれ以外の湿地等に対する依存性の評価分析を試みた。評価対象にした植物標本は、17科22分類群307点の環境省RDB掲載種であり、ENが6分類群、VUが14分類群、NTの2分類群が含まれていた。標本に記録された生息環境の記録について整理を進め、水田、ため池、河川及び氾濫原、それ以外の湿地、非湿地の5種類のカテゴリーに分け、それぞれの分類群の生息環境割合を示した。5カテゴリーすべての生息環境で採集されていたのは2分類群、4カテゴリーの生息環境での採集は2分類群であり、同じく3カテゴリーの場合は10分類群、2カテゴリーは5分類群、1カテゴリーのみ、すなわち水田だけの記載分類群3分類群だけであった。また水田、ため池、河川と氾濫原の3種類の生息環境は、全体の採集標本92%を占める主要な採集環境であったので、農業依存性の解析には、これら主要な生息環境に着目し、各生息環境での記録頻度を分類群ごとに比較検討することとした。解析の結果、大別して6種類の種群が考えられた。さらに、そのうち農業活動やそのための施設維持が欠かせない環境として、水田>ため池>それ以外の生息環境という重み付けを考え、各RDB掲載種の農業依存性について一評価を試みた。各分類群の採集標本点数はそれほど多くないため、この評価分析から、このRDB掲載種は水田農業依存であるかどうかの判別はあえて避けることにしたが、それぞれのRDB掲載種におけるこれまでの湿地における攪乱環境へ適応についての一般的知見から、水田耕作に強く依存している農業依存種の候補種は数種認められた。今回標本の記載情報に基づいた農業依存性評価を初めて試みたわけであるが、その問題点について各方面から議論した。人類の食料資源生産の場である農耕地を対象に合理的に生物多様性の保全・再生を進めるためにも、より正確かつ地域性を考慮した精度の高い農業依存性の評価が必要になる。そのためには、貴重なRDB掲載種の地域個体群の現状維持と詳細な生息地環境調査がまず為されなければならない。今こそ里地ホットスポットの保全が急務である。
- 2006-12-05
著者
-
日鷹 一雅
愛媛大学農学部附属農場
-
嶺田 拓也
愛媛大学農学部
-
日鷹 一雅
愛媛大学
-
榎本 敬
岡山大学資源生物科学研究所
-
日鷹 一雅
愛媛大学農学部生物資源教育学
-
榎本 敬
日本雑草学会
-
嶺田 拓也
農業・食品産業技術総合研究機構 農村工研
-
嶺田 拓也
(独)農研機構 農村工学研究所
-
日鷹 一雅
愛媛大学農学部・大学院農学研究科
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