縫製作業における疲労の研究 : 第3報
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概要
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5名の被検者に,種々の作業負荷を課し,その時の心拍数,大脳活動水準値,近点値,タッピング値,血圧値より生理的機能の変化を測定した。結果は次のとおりである。1)被検者5名の心拍数は縫製作業開始後漸次増加し,作業終了まで徐々に増加の傾向を示した。作業負荷が大きくなると定常値を保つことなく,縫製作業中増加しつづけている。すなわち情緒的興奮による心拍数への影響の大きいことがわかった。作業負荷が小さい場合には低い水準で定常値を保ち作業が継続する間維持されている。持続的な心拍数の増加の主な因子は中枢神経の作用によるものであろうと考えられる。本実験においては最大負荷360分で各被検者とも最高値が顕著にあらわれている。心拍数は作業強度と作業継続時間,両者の影響を受けたものと考えられる。作業時間と個人を要因として二元配置の分散分析を行った結果は危険率1%水準にて有意性が認められた。作業負荷前値に対する平均値の差の検定を行った結果は作業負荷120分,240分,300分,360分のいずれにも危険率1%水準にて有意性が認められた。2)大脳水準値は作業負荷が激しさを増すにしたがって,極度に下降傾向を示した。作業終了時には各被検者とも疲労困憊に達し,降下率40.0%を示した。作業負荷が大きくなれば分布の広がりも大きい。このことは被検者本来のレベルから極度に低下したものと考えられる。意識のはたらきが正常に行われるためには,脳があるレベルの活動状態を保っていなければならない。要するに脳の活動水準が意識のはたらきに影響することがわかった。作業時間と個人を要因として二元配置の分散分析を行った結果,危険率1%水準にて有意差が認められた。作業前値に対する平均値の差の検定結果は作業負荷60分に危険率5%水準にて有意性が認められた。作業負荷180分,240分,300分,360分のいずれにも危険率1%水準にて有意性が認められた。3)近点値は作業継続時間が増すにしたがって疲労が急増し,最大負荷360分のとき,その傾向が顕著である。午後の作業負荷240分の値が,午前の作業負荷180分の値より高いことからみて残存疲労のままで午後の作業を続けていたことがわかった。眼の調節機能は視作業において,最も重要な役割りをはたす機能であり,その疲労は眼局部のみではなく全身の疲労をも敏感にあらわすことから,縫製作業は肉体疲労(身体疲労)が比較的大きいことが把握できた。要因分析の結果は危険率1%水準にて有意差が認められた。4)タッピング値は作業負荷が大きくなるにつれて各被検者とも下降傾向を示した。作業負荷180分ごろから動作が不規則になり,動作の脱落があらわれ,反復速度が著しく減少した。この動作の脱落は神経支配の失調と意志の持続がなくなることに起因していることがわかった。つまり持久性能力のよい指標になると考えられる。要因分析の結果,危険率1%水準にて有意差が認められたのは親指,人差指,中指,薬指,小指である。5)血圧値(最大血圧,最小血圧,脈圧)縫製作業中心臓が拍出量を増すため最大血圧の変動は作業開始後60分で急増し,作業負荷180分ごろからほぼ最高値を維持する傾向がわかった。分布の広がりは作業継続時間が長くなるほど大きくなっている。要因分析の結果は,危険率1%水準にて有意性が認められた。最小血圧の変動は作業開始後60分より漸次下降傾向を示した。分布の広がりは経過時間とともに大きくなっている。要因分析の結果,危険率5%水準にて有意差が認められた。脈圧の変動は時間の経過とともに上昇傾向を示した。要因分析の結果,危険率1%水準にて有意性が認められた。以上のことから縫製作業中心臓は,拍出量を増し収縮が強くなり最大血圧は上昇する。動脈系における血圧は心臓機能と密接な関係にあることがわかった。末梢血管の拡張によって最小血圧はあまり上昇しない。したがって脈圧が高くなる。脈圧は拍出量と関係が深く心機能の状態を示すことから生理的反応として重要である。縫製作業時の疲労の要因となるものは身体的因子として精神的,心理的な原因すなわち作業内容に対する興味の喪失,不安感,長時間継続させられる激しい作業負荷に対する苦痛などの因子の存在がある。また体内物質の不均衡により諸機能の相互間のバランスの乱れが原因となって発現することも考えられる。精神疲労(中枢疲労)によるものとして連続的緊張を強いられる作業内容が複雑になるほど緊張度が高まり,疲労も多くなる。縫製作業者の神経性の多い疲労でも座位固定した作業姿勢を長時間続けると筋肉の疲労を起こすことはしばしば経験することである。つまり肉体疲労(身体疲労)のあることを示唆している。要するに単一な原因によるものではなく,多数の原因が同時におこって疲労が発現することがわかった。縫製作業の指導に際し,縫製作業についての適性度を知る手がかりを得る必要から本実験を行ったのであるが疲労の度がどの程度であるかを知ることは極めて重要であることがわかった。終わりに,本実験に協力してくださいました被検者の皆様に深謝いたします。なお,本研究は島根県助成の昭和57,58,59,60年度特別研究費の一部を以って行われたものである。
- 1987-03-30
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