プレスナーの哲学的人間学における位置性の理論(4)
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概要
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前稿では植物の位置形式にかんするプレスナーの理論を検討したが,本稿では動物の位置形式にかんする理論が検討の対象となる。プレスナーによれば,植物が周囲の環境にたいしておのれを委ね,したがって開放的な位置性をとるのにたいして,動物は周囲の環境にたいしておのれを遮断して行動し,したがって閉鎖的な位置性をとる。閉鎖的な位置性は,動物が組織的に分化した身体諸器官とこれを統合する中枢神経系をもつことを促すとともに,周辺領野にたいして自立的におのれの足で立つことを要求する。この段階にいたって動物的な有機組織は,正対性にもとづき,また知覚と反応の行動図式を形成することによって,周辺領野に相対することになる。しかし動物は,彼らが空間的には<ここ>,時間的には<今>のうちに組み込まれて,これから身を引き離したり,空間・時間と事物とを客観的に対象化することができず,ここに動物の達成限界がある,とプレスナーは言う。しかし,プレスナーのこうした叙述は,生物学出身の彼の経歴にふさわしく,当時の生物学の諸成果に依拠してはいるが,問題が位置性または位置形式に還元されるあまり,全体として見れば,動物と人間との質的区別という,シェーラーに始まる哲学的人間学に共通の思考の枠組みを超え出ることができなかったといわなければならない。プレスナーがいう,時間・空間のうちへの埋没を初めとする動物のさまざまな達成限界と,これを超えた人間の脱中心的な位置性との差異も,動物と人間の位置形式の根本的な差異というよりは,動物の意識活動の制約と,急速な大脳化にともなう人間の意識活動の飛躍的前進との差異であると考えてはならない理由は存在しないであろう。
- 札幌学院大学の論文
- 2002-12-25
著者
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