東北地方南部産の新第三紀後期フウ(マンサク科)
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概要
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山形県米沢盆地西方地域に分布する高峰層(中新世後期)の植物化石群(高峰植物群)から, フウ属 (Liquidambar) 2種を認め, これらが会津盆地の藤峠層より報告された Liquidambar formosana var. cordata K. SUZUKI と "Acer protopalmatum K. SUZUKI" に一致することが分かった。そこで高峰層および藤峠層産の葉・果実化石の検討結果をあわせて, それぞれ L. cordata (K. SUZUKI) UEMURA, stat. nov., L. protopalmata (K.SUZUKI) UEMURA, comb. nov.として再記載した。前者は Cathayambar 節, 後者は Liquidambar 節に属し, 中新世後期の日本に2系統のフウ属が存在したことが確かめられた。 L. cordata は, 現生タイワンフウ (L. formosana HANCE) に近緑な3裂掌状葉であるが, 著しい心脚葉となることで現生種より, また中新世前〜中期に多い3裂型フウ (L. miosinica Hu et CHANEY) とは側生裂片が水平展開することで区別される。 L. protopalmata は一見するとカエデ属やハリギリ属と類似の葉形を示すが, 裂片形, 腺体を有する鋸歯縁, semicraspedodrome の2次脈系, 細脈系などの特徴でフウ属に含められる。本種は5裂(稀に7裂)の掌状葉で, 鋭三角状の鋸歯を密にそなえることに特徴がある。L. styraciflua L. orientalis Mill.(小アジア)の現生種, およびユーラシア西部の第三系産 L. europaea A. BR., 北アメリカの中新統産 L. pachyphylla KNOWLT., 日本の中新統産 L. japonica K. SUZUKI とは多少の類縁が認められるものの, 本種は上記鋸歯特性でいずれとも区別できる。葉と伴って産する多数の集合果は, 共産関係と類縁現生種における葉・果実形態を考慮して本種に含めた。これらは太く木化した花柱や不明瞭な蕚片の存在により Liquidambar 節の形態的特徴を有している。なお, 果実化石のみについてみると, 本種は中国中∿南部に現生の L. acalycina CHANG にも類似する。 高峰植物群は, 温帯性落葉広葉樹を主体とし, これに現在の日本に自生しない属や少数の常緑広葉樹を交える。会津盆地の藤峠層産植物化石群(西羽賀植物群)も高峰植物群と同様な組成をもち, ともにスイショウ属, ハンノキ属, ヤナギ属, ハコヤナギ属など水湿地を好む樹種が豊富である。化石の産状・共産種, 岩相, 類縁現生種の生態から判断すると, L. cordata, L. protopalmata とも堆積盆に隣接した低地森林の主要な構成要素であったと考えられる。
著者
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植村 和彦
Department of Geology, National Science Museum
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植村 和彦
国立科学博物館
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植村 和彦
国立科学博物館地学研究部
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植村 和彦
Department Of Geology And Paleontology National Science Museum Tokyo
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