渥美半島更新統産のブナ属遺体
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概要
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愛知県渥美半島の渥美層群(第四紀更新世中期)より得られたブナ属の葉・殻斗果・種子遺体を検討し, Fagus microcarpa MIKI, F.cf. F. crenata BL., F. sp. の3種を記載した。また, 第四紀のブナ属種を主要構成種とする温帯林について簡単な考察をした。Fagus microcarpa は京都府の更新統産殻斗, 種子および葉にもとづいて記載され(三木, 1933a), その後, 日本各地の新鮮∿更新統より報告されている。本種殻斗は短かく太い果柄を有し, 小型, その外面には殻斗先端より基部にわたって。比較的粗に, 先端の短かく背反する剌毛を有する。種子は小型で三稜を有し, 稜上部より下部にかけて小翼がある。本種は上部中新統に多産する F. stuxbergi (NATHORST) TANAI, および, 現生 F. hayatae PALIB. ex HAYATA (台湾), F pashanica C.C. YANG (中国四川), F. crenata BL. (日本)に類縁を有するが, それぞれ殻斗・種子の大きさ, 種子の翼形, 剌毛の性質で区別される。現生3種のうち, とくに F.hayatae と F. pashanica に最も類縁性が強い。三木(1933a)は, 葉を含めて本種を記載したが, 葉と殻斗・種子との対応関係はなお検討を要し, 今回の報告では葉を除いて再定義した。本種は, 鮮新世∿更新世中期の日本各地に広範に分布していたと考えられる。 Fagus cf. F. crenata の種子一個は, その大きさ, 形状, 上端部の翼形によって, 現生ブナにほぼ比較できる。 Fagus sp. とした葉は, 小型で単鋸歯を有し, F. nathorsti KON'NO et OTUKA にほぼ一致する。現生ブナ(F. crenata)の殻斗化石記録は第四系上部を除いて意外に少なく, ブナという種を主要構種とする温帯林の出現は, 少なくとも渥美層群堆積時(更新世中期)以降の比較的若い地質時代であることを推察した。
- 1980-12-01
著者
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植村 和彦
Department of Geology, National Science Museum
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植村 和彦
国立科学博物館
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植村 和彦
国立科学博物館地学研究部
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植村 和彦
Department Of Geology And Paleontology National Science Museum Tokyo
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