中国雲南省産カンアオイ属植物の一新種
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概要
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本稿では,中国雲南省カンアオイ属植物の一新種を報告する。この種は,広西,広東,貴州省に分布するA. geophilum HEMSLEYや台湾,中国海南島に分布するA. epigynum HAYATAと同じ染色体数(2n=12)をもち,花の形態でも,下位子房の上に短いがく筒を形成し,その内面は平たんで,長毛を密生するなどよく類似した特徴をもっている。また,花が長い花柄をもちながら地に横たわり,開花習性のうえでも共通した特徴がみられる。このことから,これら3種は互いに強い類縁性があるものと考えられる。一方,この種は,葉が広卵形で,花糸が比較的長く(0.4-0.7mm),葯隔が幅広く,そして長く突出するなどの固有の特徴をもち,A. geophilumやA. epigynumから容易に区別することができる。また胚珠の数が1子房室(全体で6室)あたり8-10個で,他の2種より多い。さらに,A. yunnanenseの染色体組はほとんど中部型染色体から構成され,次中部型や次端部型染色体からなる上記2種の核型とは大きく異なる。従って,これは独立種とみなしうると考える。中国大陸には,30種ほどのカンアオイ属植物が分布するが,なかでも雲南省では,多様な種の分化がみられ,13種ほどの自生が報告されている(CHENG & YANG, 1983, 1988)。その多くは日本のフタバアオイ(A. caulescens MAXIM)や常緑性のカンアオイ群と類縁があるものと考えられてる(MAEKAWA, 1953)が,詳しい比較検討はいまだなされていない。A. yunnanenseを含む3種は,これまで知られる限りでは,いずれも属内で最少の染色体数(2n=12,他の種は2n=24,または2n=26)をもち,花は短いがく筒をつくり,その内面がなめらかであるなど,属内でもきわめて特異な特徴をもつ一群である。その系統については今後の研究のなかで明らかにしていきたい。
- 日本植物分類学会の論文
- 1990-09-25
著者
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菅原 敬
東京都立大学大学院理学研究科牧野標本館
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菅原 敬
Makino Herbarium, Tokyo Metropolitan University
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誠 許容
Department of Pharmaceutical Science, Beijing Medical College
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誠 許容
Department Of Pharmaceutical Science Beijing Medical College
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