状態のフラクタル次元を用いたクレータおよび河川の複雑さの解析

概要

論文の詳細を見る
Mandelbrotは複素ユークリッド空間上にユークリッド次元とは異なる新しい指標を導入し[1],これはフラクタル次元と呼ばれている.フラクタルという概念は,その汎用性の高さのため,自然現象の総合的な理解に向けて,有用なツールを提供でき得るかもしれない.しかし,従来のフラクタル次元は厳密には自己相似な幾何学図形に対してのみ議論できるものである.筆者の一人はこの概念をさまざまな分野に適用していくために,一般の量子力学系(C^*-力学系)の状態に対して,状態のフラクタル次元を定式化した[2]〜[4].この定式化は通常の古典系や量子系を含む十分に一般的なものである.また,こうして導入された状態のフラクタル次元は,エントロピーとは異なる,状態の複雑さを示す新しい指標となり得る.本論文では,月面クレータおよび,日本の河川の形状から,完全事象系(i.e.,古典離散系)を定め,状態(i.e.,確率分布)のフラクタル次元を計算することによって,その形状の複雑さの解析に状態のフラクタル次元が,従来のフラクタル次元やエントロピーに比べ,より明確な指標となることを示す.
社団法人電子情報通信学会の論文
1996-09-25