1950年代南西ドイツにおける私立学校法の制定経緯とその教育史的意義
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概要
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私立学校の自由と権利がどこまで保証されるのか、そして私立学校が教育制度全体の中で如何なる位置と役割を果たすことになるかは、その国の教育の在り方の根幹と通底する問題である。とりわけ、私立学校の自由と国家による学校統治との結節点を成す私立学校法(Privatschulgesetz)に関する研究は、その国の教育の特質と構造解明の点で重要な意味を持つ。本稿は、ドイツ連邦共和国(旧西ドイツ、以下単にドイツという)成立直後の南西地域(バーデン州およびバーデン・ヴュルテンベルク州)における私立学校法の制定経緯を検証し、そこでの私立学校の自由の法的保障獲得とその過程で導き出された新しい教育認識が、同時に1960年代中頃以降のドイツの公立学校の民主化運動を支える一つの基盤ともなっていたことを明らかにしようとするものである。従来のドイツ私立学校に関する研究では、田園教育舎やシュタイナー学校といった改革教育運動系列の学校における教育実践の特質や創始者の教育思想の研究が大半を占め、かかる優れた私立学校の教育が如何なる教育法制の下で展開されてきたのか、つまり私立学校法制への関心は極めて希薄であった。だが、例えば、国家の学習指導要領に従わず、教科書も使用しない教育を実践するシュタイナー学校が、ドイツ国内で170校近くにまで増加できた背景の一つとして、私立学校の自由と権利が各州の教育法(多くは私立学校法)によって保障されている事実に注目することが必要であろう。ドイツの私立学校法制史上、こうした私立学校の自由保障の嚆矢となったのは、1950年の南バーデン州私立学校法であり、同法はさらに1956年のバーデン・ヴュルテンベルク州私立学校法に継承・発展されていった。しかも注目すべきことは、この南西ドイツにおける私立学校法の制定過程に関与した人物たち、特にゲオルク・ピヒト(1913-1882)、ヘルムート・ベッカー(1913-1993)が同時に1960年代以降の公立学校の民主的改革においても、その中心的役割を果たしている事実である。だが、こうした興味深い事実も、従来の戦後ドイツ教育政策史研究においては等閑視されてきたのであった。以上のような課題意識および先行研究の問題点を踏まえ、本稿は以下の三つの論点を分析することを目的とする。1)ドイツの伝統的な学校統治体制および教育法理論の中で私立学校は如何に位置づけられてきたのか?2)南バーデン州私立学校法(1950年)およびバーデン・ヴュルテンベルク州私立学校法は如何なる経緯で制定されたのか?3)南西ドイツにおける私立学校法の制定はドイツ教育の歴史展開において如何なる教育史的意義を有していたのか?
- 日本教育学会の論文
- 1999-06-30
著者
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