マダイの卵発生と卵質改善に関する生化学的研究
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概要
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多回産卵魚であるマダイPagrus majorは, 1産卵期を通してほぼ毎日産卵するが, 卵質は一定ではなく産卵毎に大きく変動する。マダイの種苗生産では大型水槽への卵収容にあたって, 受精率や浮上卵率で卵質を判断するしかなく, 卵発生過程あるいは卵黄仔魚において斃死することが少なくない。そこで, 産卵後の早い段階で卵質をより正確に評価でき, また多量の良質卵を適宜入手できれば, 安定した種苗生産が行え今後の量産技術の発展にも大きく貢献できる。以上の観点に立って, 本研究ではマダイの初期発育および産卵に関する種々の生化学的研究を行い, 次に示す興味ある基礎的および応用的知見を得た。1.1尾の雌親魚が産卵を開始してから終了するまで, 経日的に卵割初期卵を採取して各種項目について調べたところ, 受精率, 浮上卵率, 孵化率および正常孵化率は高い値を維持したが, 卵径, 卵重量, 仔魚の全長, 卵の蛋白質およびリン脂質(PL)含量などは減少した。しかし, 卵のトリアシルグリセロール(TAG)含量は大きく変動し, 産卵に伴う明瞭な傾向は認められなかった。次いで, 発生に伴う変化を各発生段階に達した卵および仔魚を採取して測定したところ, 孵化あるいは摂餌開始期に達するまで核酸含量は増加し続けたが, 蛋白質およびPL含量はほぼ一定の値を維持し, 遊離アミノ酸およびTAG含量は大きく減少した。一方, 卵のGOT, GPT, クレアチンキナーゼ(CK), アルカリフォスファターゼ(ALP)などの活性はいずれもクッパー氏胞出現期以後から増加した。以上の結果から, 産卵期における卵サイズの変化は主に卵の蛋白質およびPL含量の低下に基づくこと, TAGが卵発生期間における主要なエネルギー源としての役割を担うこと, そして卵発生に伴う各種酵素活性の変化は形態的変化とよく対応していることなどが示された。また, PL含量は低孵化率および低正常孵化率卵で著しく低かった。2.受精率および浮上卵率に差異はなかったが, 孵化率に顕著な違いが認められる卵で, 発生に伴う化学成分および酵素活性の変化について比較検討したところ, 高孵化率卵のPLおよび遊離チロシン(FT)含量は, それぞれ卵割初期および胚体出現期において低孵化率卵より有意に高かったが, 卵重量, TAGおよびクレアチンリン酸含量, GOTおよびCK活性と胚体出現期を除くGPT活性に孵化率の違いに基づくと考えられる差異はなかった。以上の結果から, 受精率および浮上卵率のみで卵質を評価することの危険性を確認するとともに, 卵質評価には卵のPLおよびFT含量が有効である可能性が示唆された。実用性を考慮すると卵割初期において差異が認められたPL含量が, 評価基準としてより有効であろう。3.卵および親魚管理技術の進展に資する知見を得るために, 卵収容水の温度変化や産卵期における親魚の絶食が, 卵重量, 卵質, 卵の化学成分および酵素活性などに及ぼす影響を調べた。緩やかな温度上昇(2.5,5.0および7.5℃/3h)に対する感受性は, 卵割初期卵より嚢胚期および眼胞形成期卵で高かった。嚢胚期卵および眼胞形成期卵の加温区では対照区に比べて正常孵化率は低く, 逆に卵のTAG, PLなどの化学成分含量および化学成分含量とGOT, GPT, CK, ALPなどの酵素活性がそれぞれ高くなる傾向にあった。一方, 産卵期間中に親魚を絶食条件下で飼育すると, 給餌区に比べて産卵数は顕著に減少したが, 卵重量, 受精率, 孵化率および正常孵化率は優れており, 卵のPL含量も高く維持したが, 卵のTAG含量に差異は認められなかった。以上の結果から, 胚体出現期付近を境にして, それ以前および以後における加温刺激は, それぞれ細胞分裂および器官の分化・形成に異常を誘起して, 卵の化学成分含量や酵素活性が高く維持されたものと推察された。また, 絶食下におけるマダイ雌親魚は, 産卵数を減少させる代わりに卵1粒当たりのPL含量を増加させて, 卵や仔魚の生き残る確率を高めている可能性が示唆された。いずれにしても, 種苗生産を効率よく行うためには, 卵発生期間中の水温と親魚飼料の質や量に留意する必要があろう。4.これまでの研究結果から, 卵のPL含量が卵質に深く関わっていることが示唆された。そこで, 脱脂沿岸魚粉を主体とする飼料へPL源として大豆レシチン(SBL)を配合して親魚に給与したところ, 期間中の総産卵数, 浮上卵率, 孵化率, 正常孵化率および無給餌生残指数は, 大豆油(SBO)を配合した区に比較して優れていた。また, 産卵後期におけるSBL区ではSBO区より卵のPL, EPAおよびDHA含量は有意に高く, 逆に18 : 1n-9/n-3HUFAおよび18 : 1n-9/DHA比は低かった。また, 期間中における両親魚区の飼育成績をみると, 給餌率およびエネルギー給与率に区間差はなかったが, SBL区では期間増重率, 飼料効率, 蛋白効率などには正の値が得られたのに対して, SBO区のそれらはいずれも負の値であった。さらに, 魚体の化学成分含量から算出した期間中における雌魚体のエネ
- 1998-03-31
著者
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