甘蔗の赤変に関する生化学的研究(農芸化学科)
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概要
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甘蔗赤腐病は糸状菌Physalospora tucumanensisの不完全時代であるColletotrichum falcatum wentによる汚染が主原因であるとされているが,その他の微生物,昆虫の食傷,生育中の裂傷などが原因でも,類似の現象が起こるといわれているように,赤変機構そのものについては,不明な点が多い。殊に生化学的立場から検討を加えた報告は皆無である。筆者は甘蔗赤変現象の発現に関して化学的並びに生化学的研究を行ない,次の様な結果を得た。即ち1章では,赤変甘蔗抽出物のペーパークロマトグラムから色素A, B, C, Dを分離し,それぞれ分子式と官能基を元素分析,MS, IRスペクトルおよび定性試験の結果から検討した結果を述べたものである。すなわち,1)色素A (C_<18>H_<24>O)はbutenyl基を有するphenol化合物,2)色素B (B-1 C_<22>H_<22>O_<10>, B-2 C_<22>H_<22>O_9)はflavonol誘導体,3)色素C (C_9H_8O_3), D (C_6H_8O_4)はともにエーテル型酸素あるいはmethylendioxide型酸素を有するphenol化合物であろうと推察された。何れも前掲文献に挙げたものとは一致しなかった。2章では,甘蔗赤変の発現は糖類の存在と密接な関係があるが,その濃度の影響をほとんど受けないこと,酸素の存否にも関係ないことを明らかにした。3章では,赤変甘蔗からphoma sp菌とC. pulcherima菌の分離同定について述べた。またこの両菌ともP. tuoumanensis同様赤変については間接的に関与していることを明らかにした。4章では,甘蔗peroxidaseについて論述した。即ち,自然赤変区においては甘蔗peroxidase活性はほとんど一定しているために,色素の生成とperoxidaseとの関係は不明であったが,人為赤変区においては,赤変が僅かに認められる頃の培養初期に最高の酵素活性を示した。甘蔗梢頭部から根茎に至る各茎の酵素活性はほとんど一定であった。また含有糖分とも無関係であった。5章では,phenol性化合物の同定と,その生化学的反応をin vitroで実施したものである。即ち,甘蔗中にはphenol性化合物として,phenol, ferulic acid, p-coumaric acidのほかに痕跡程度の3未確認化合物が存在すること,およびこれらのうち生体内赤変反応に関与するものは,phenolとferulic acid(あるいは,これに極めて近縁なもの)だけであることを明らかにした。phenolと甘蔗peroxidase, phenolとHMF, ferulic acidとperoxidaseはそれぞれ反応して異なる褐変色素を生じるが,前二者の反応は甘蔗赤変に関与していることが推論された。第6章では,赤変色素の抗菌活性等を検討した。その結果,何れも若干の抗菌力,魚毒性をもっていた。従って赤変色素は甘蔗における1種のphytoalexinではないかと推察される。
- 琉球大学の論文
- 1973-12-01
著者
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