硬質コムギの二次加工適性の評価及び品質改善のための選抜法に関する研究
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概要
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国内で育成された2種の代表的な硬質コムギ品種(「キタノカオリ」、「春よ恋」)の二次加工適性を把握するため、小麦粉の成分特性や物理的特性とパン・中華麺適性との関係を検討した。また、主に中華麺を対象とし、優れた二次加工適性を有するコムギ系統を選抜するための新しい評価法を開発した。研究成果を要約すると以下の通りである。1.アミロース含量がやや低いというデンプン特性を持つ2種のパンは「1CW」や「HRW」に比べ焼成直後から貯蔵初期にかけて、非常に柔らかく、老化が遅いことが示された。このことには、貯蔵初期のパン中のデンプンの老化がやや遅く、パン中のデンプンゲルが柔らかいことが関係しており、さらにこれらのパン中のデンプンの物性には、アミロース含量が関係していることが明らかとなった。2.「キタノカオリ」が「春よ恋」と異なり、貯蔵初期だけではなく貯蔵期間全体を通して、パンが柔らかく、凝集性が高いのは、粉の吸水率が高く、パンの水分含量が高いためと考えられた。3.「キタノカオリ」の生麺は時間の経過による明るさの減少程度が小さく、明るさの安定性の要因としてPPO活性が低いことが推察された。さらに、「キタノカオリ」の麺は赤みや黄色みの変化も小さかった。また、物理的な特性と食感に関して検討した結果、2種の国内品種はRVAによる糊化特性のブレークダウンが高く、セットバックが低く、デンプンゲルやゆで麺の粘弾性が高かった。4.官能試験では2種の国内品種の粘弾性の評価が高く、その要因として国内品種の小麦粉のアミロース含量が低いことが推察された。総合点は「キタノカオリ」が最も高かったが、これは、低アミロースであるため、粘弾性となめらかさの評価が高く、タンパク質の物性が強いために低アミロースによる硬さの低下が抑えられたことによるものと考えられた。5.低いPPO活性と低いアミロース含量を持つことにより、「キタノカオリ」は優れた中華麺適性を示すことが明らかとなった。6.コムギ種子を2mmの厚さの輪切りにし、外周の皮を取り除いた後、4時間蒸留水に浸漬し、微小面分光色差計を用いて胚乳断面の色(L(*)、a(*)、b(*))を測定した。この方法で得られた胚乳断面色は、L(*)、a(*)、b(*)のいずれも、ふすまが混入していない胚乳粉色との間に高い相関関係が認められ、胚乳断面色を測定することにより、胚乳粉色を推定できることが明らかとなった。また、胚乳断面色と従来法による粉色の評価を比較した結果、黄色みにおける評価は一致するが、明るさにおける評価は従来法がふすまの混入の影響を受けるため一致しないことが示された。7.ふすまの混入による粉色の変化を検討するため、胚乳粉色とブラベンダー製粉機で製粉して得たA粉の粉色を比較した結果、製粉時のふすまの混入は粉色のL(*)を低下させ、低下の程度は品種・系統によって異なることが明らかとなり、ふすまの混入による粉の暗色化の程度には、品種間差があることが示された。8.本研究で用いられた品種・系統では硬軟質性及び粗タンパク質含量に関わらず、胚乳断面色のL(*)が高いものが存在し、硬質、軟質の両方において胚乳色の優れた系統を選抜でき、さらには子実のタンパク質含量が高く、かつ胚乳色の優れた系統を選抜することが可能であることが示唆された。9.種子のPPO活性の簡易評価法であるL-DOPA(3、4-Dihydroxy-L-phenylalanine)法によって北海道の硬質コムギ品種・系統のPPO活性の変異が推測できることが明らかとなった。10.種子のPPO活性と中華麺色の変化の関係は、小麦粉におけるPPO活性に比べて相関は小さかった。そこで、より効率的な選抜をするために以下のような小麦粉のPPO活性の簡易評価法を開発した。平底の培養試験管に小麦粉0.2gと10mMのL-DOPA溶液を4mL入れ、1時間振とう後18時間室温に放置し、色彩色差計によって着色した懸濁液のL(*)、a(*)、b(*)を測定した。この簡易評価法で得られたL(*)値と従来法である酸素電極法による小麦粉のPPO活性値の間には高い負の相関関係が認められ、反応液のL(*)値が高い系統を選抜することにより、PPO活性が低く、中華麺の変色が少ない系統の選抜が可能であると考えられた。
- 2009-09-00
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